裁判員制度広報に関する懇談会(第5回)

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日時
平成17年10月18日(火)午後3時00分から5時00分
場所
最高裁判所中会議室
出席者
(委 員)
井田 良,篠田節子,平木典子,藤原まり子,吉田弘正,渡辺雅昭(五十音順・敬称略)
(裁判所)
戸倉審議官,中村総務局第一課長,河本総務局参事官,鬼澤刑事局参事官,大須賀広報課付

席上配付資料

  1. 意見をお聞きしたい点(第5回,第6回)
    • 裁判員制度広報に関する基本的な考え方について
      • 刑事裁判や裁判員の役割の具体的イメージを伝える広報に重点を置くという方針は適当か。
      • 平成17年度を含む4年間の広報活動の各段階における目標設定の在り方
      • 法曹三者における連携,分担の在り方
    • 平成17年度に実施し又は実施予定の広報活動について
      • 目標と具体的施策のマッチング
      • ビデオ,ブックレット,パンフレット等の広報ツールの意図,内容の評価及びその活用方法
      • フォーラムの意図と構成の評価
      • メディアを使った広報の在り方
      • 裁判員制度に関心の低い者を引きつけるための広報活動の在り方
    • 分かり易く迅速な裁判とするための検討状況,参加し易い環境整備のための検討状況の広報について
      • 多くの事項で検討中の段階で,何を伝えるべきか。
      • 途中経過を伝えた場合のネガティブなリアクションをどう考えるか。
  2. 新聞広告(10月17日全国紙掲載版)

配付資料

資料1
裁判員制度の円滑な実施のための行動計画
平成17年8月3日裁判員制度関係省庁等連絡会議

*内閣官房サイトの「裁判員制度関係省庁等連絡会議」内にリンクしています。
資料2-1
裁判員制度の円滑な実施のための広報啓発の全体計画
平成17年9月27日裁判員制度広報推進協議会(18KB)
資料2-2
裁判員制度の円滑な実施のための広報啓発の全体計画(イメージ図)(20KB)
資料3
裁判所による裁判員制度の広報活動について(11KB)
資料4
司法の窓 Vol.6 7
*裁判所ウェブサイト内でご案内しています。
資料5-1
裁判員制度全国フォーラム開催日程・会場一覧(12KB)
資料5-2
質問用紙
資料5-3
裁判員制度に関するアンケート
資料6
出張講義,模擬裁判実施状況調査結果概要(111KB)
資料7
「裁判員制度広報推進地方協議会」の設置について(8KB)
資料8
社会教育施設を活用した裁判員制度等に係る教育・啓発活動の推進について
*文部科学省サイトの「報道発表一覧」内にリンクしています。

第5回会議録

【戸倉審議官】

第5回の裁判員制度広報に関する懇談会を開催します。
まず,今回初めて出席させていただきます,刑事局参事官の鬼澤を御紹介します。

【鬼澤刑事局参事官】

鬼澤でございます。よろしくお願いします。

【戸倉審議官】

本日と次回に御意見を伺いたい点について,お手元に「意見をお聞きしたい点(第5回,第6回)」というペーパーをお配りしておりますので,御確認ください。
かいつまんで御説明しますと,4回の懇談会でいただいたさまざまな御意見を参考にして,裁判員制度広報を法曹三者の取り組みと裁判所独自の取り組みに分け,それぞれにどう取り組むべきかを検討しました。その結果,基本的には,制度の周知については法曹三者の一員として取り組みながら,さらに裁判員裁判を主宰すべき立場にある裁判所として,裁判員裁判の手続や,裁判員の仕事をお伝えするといった観点の広報に重点を置いて,裁判所独自の問題としても取り組むべきだと考えました。
また,広報の対象としては,広く一般国民とすると約1億人が対象者となり,広報戦略を立てるにもなかなか難しくなります。むしろ,初年度は,裁判員制度の運営や実施について,固有の利害関係を持っておられる方,例えば,従業員を裁判員として送り出す立場にある企業経営者や管理職の方々,将来の裁判員である生徒や学生の教育に携わる教員の方,地方自治体の方,あるいは二次的な伝播をしていただける有識者やマスコミ関係の方々にターゲットを絞って,広報活動をしていくべきではなかろうかと考えました。
このような方針でよかったのかどうか。また,今後の広報活動の各段階にどのような目標を設定して実施するとよいのか。あるいは法曹三者の連携や分担のあり方について,御意見,御批判をいただきたいと思います。
その後,「意見をお聞きしたい点(第5回,第6回)」の二つ目の○にあるとおり,今年度の企画の具体的な施策やマッチングなどについて御意見を伺いたいと思っております。
最後の○については,裁判員制度は,法律はできておりますが,具体的な運用や裁判員の参加しやすい環境の整備など,多くの課題を抱えている状態です。現在進行形の検討作業の過程を伝えた結果,予想外のネガティブなリアクションを経験し,検討途上にあるものの伝え方は,非常に難しいという問題に直面しております。こういったものをどう伝えていけばいいのかという点についてもお知恵を拝借できればと考えております。
以上,2回の懇談会でお聞きしたい点について概略を御説明いたしました。
それでは,御意見を伺う前に,裁判所の裁判員制度広報の基本的な考え方と,それに基づく具体的施策について,御説明させていただきます。

【河本総務局参事官】

ただ今,審議官からも御説明しましたが,今年度は,裁判員制度に非常に利害関係の深い方,関心の強い方々に焦点を当て,裁判員の役割と職務に重点を置いて広報活動を行うという方針です。
資料3にあるように,そのきっかけとして,まず国民の関心を引いて,認知度を向上させることが必要だと考え,シンボルマークの制作やキャッチフレーズの公募などを行いました。
広報する内容については,裁判員制度広報の予算を効率的かつ合理的,効果的に活用するために一番適切な方法はどのようなものか,昨年懇談会のメンバーの皆さまからの御意見を参考に検討しました。
その結果,今年度は,いわゆる文字媒体を中心に,裁判員の役割を示していく方法が最も効果的ではないかということになりました。同時に,ある程度関心の強い方々にお集まりいただいて,全国でフォーラムを行うことにしました。およそ13億円の予算のうち,約4億円を全国フォーラムに,約6億円を文字媒体によるメディアミックス企画実施に投入して,大きな広報効果を上げることをねらっています。
メディアミックスでは,昨日(10月17日),全国紙5紙の朝刊に大きく長谷川京子さんの写真を背景とした広告を掲載しました。これは,先ほど申し上げた,制度周知のために国民の目を引き付けるという施策の一つです。また,企業の経営者層をターゲットにして,「プレジデント」「東洋経済」といった経済誌を中心に,20の雑誌に,11月から来年3月までの間に各誌2,3回ずつ広告を掲載する予定です。広告の内容については,現在検討中ですが,基本的には,見開きカラーページで,刑事裁判を担当する裁判官の独白,もしくは対談形式の記事を載せる予定です。その広告の中で,刑事裁判に対する裁判官の思いや,裁判員制度に対する期待,それから裁判員になられる国民の方々に期待するものをお伝えしたいと考えています。
また,全国フォーラムは,資料5-1のとおり,10月1日の福岡会場を皮切りに全国50カ所で開催中です。構成は,ビデオ「刑事裁判-ある放火事件の審理-」を見ていただき,裁判官が裁判手続と裁判員制度のポイントを解説した後,会場から集まった質問について,各地の有識者を中心とするパネリストの方々で議論していただき,地元の法曹三者がそれについてアドバイスするという形です。
資料5-2は,参加者の質問を書いていただく質問用紙,資料5-3は,アンケート用紙です。本日までに,8カ所で実施しましたが,毎回ほぼ満員で,途中退席される方がほとんどなく,アンケートは,8割以上の参加者の方々が御協力くださっています。関心の強い方々にお集まりいただいて制度を御理解いただくという目的は,現在のところ達成できているのではないかと思われます。また,フォーラムの運営状況を見ても,裁判員制度を法曹三者で積極的に広報していくという方針も,現在のところ維持できているのではないかと考えています。来年1月29日の東京のラスト企画に向け,気を抜かずに進めていきたいと思っております。
続いて今後の方針ですが,来年も,広く国民一般に対する広報にはまだ早いと考え,特定の層にスポットを当てた広報を検討しています。
今年は特に経営者層やビジネスマンにスポットをあてましたが,来年はもう少し広げ,全国フォーラムのテーマを変えてみたり,これから裁判員になられる学生の方々に向けたアニメの作成などを考えています。
学生向けという点では,裁判員制度をある程度細かめに解説したブックレットをカラー刷りで作成中です。大谷刑事局長と内山理名さんの対談,手続の解説などを載せて,30万部が11月中旬にできあがります。これは,高校生以上の非常に裁判員に関心があり,ある程度知識のある方に向けたもので,高等教育における法教育などの機会にも積極的に活用できればと思っています。
以上が,広報ツールの説明ですが,裁判員制度広報は,裁判員制度の運用と,国民が参加しやすい環境の整備,この2つを充実させて,その充実させた内容を広報していくことが何よりも大事だと思っています。
そのためには,法曹三者が一致協力してわかりやすい裁判を実現すること,その内容をわかりやすく広報していくこと,それからもう一つ,環境整備に関しては,これまでもこの懇談会で御指摘いただきましたが,裁判所だけではなく,所管の各行政省庁の協力・理解が不可欠です。5月に「裁判員の円滑な実施を目指す行動計画」を策定するための関係省庁の連絡会議が立ち上がり,議論の結果,8月3日に資料1の行動計画ができました。
これは,広報計画,法教育,環境整備,裁判所の物的人的基盤の整備をコアに,各省庁一丸となって,この裁判員制度の環境整備を進めていこうという内容なっています。例えば,仕事を持っておられる方々が参加しやすい環境整備に向けた行動計画や,育児・介護をなさっている方々が参加しやすいように,育児・介護サービスの利用促進することなどが盛り込まれています。この行動計画は,まだ抽象的なものも多少ありますが,関係各省庁がある意味で債務を背負った形で,制度の円滑な実施に向かって進んでいくという目的のもとにつくられており,これを今後さらに活用していきたいと思っています。
資料2は,資料1の行動計画の中にある,今後の広報の全体計画を立て,各年度ごとの広報計画を立てなさいという項目を受けて,法曹三者が合意したものです。先ほど申し上げたような段階的な広報を手段面と内容面ともに法曹三者が一致協力して,わかりやすい裁判の実現に向けて努力していく,関係省庁の協力を得て環境整備に努めていくということを再度目標として設定した計画です。
また,中央レベルだけでなく,各地でも必要に応じて法曹三者間の連絡調整を行いながら広報活動を行っていくという観点から,協力姿勢を明らかにするために,資料7のとおり広報推進地方協議会を各地でも設置することになりました。設置を義務づけているわけではありませんが,協議会を立ち上げることで,随時協力体制を組めるという趣旨です。
資料8は,各地の公民館や図書館などの社会教育施設へ,裁判官,検察官,弁護士などを市民講座の講師として派遣することを広く周知するための通知文書です。法曹三者がどんどん各施設に出ていって,広報に励むことを文書の形で確定しています。

【戸倉審議官】

続いて,選定手続などに関する検討状況を簡単に御説明させていただきます。

【鬼澤刑事局参事官】

資料4の28ページ左にある図が,裁判員の参加する刑事裁判の流れを表したものです。左から2番目の公判前整理手続が,刑事訴訟法改正によって新設され,裁判員制度が始まる前に,11月1日から先行して実施されることになりました。
新たな刑事裁判として目指すものの具体的なイメージは,29ページの「具体的なイメージ」に書いてあります。これまでは,真に争いになっている部分以外も幅広く審理されていましたが,公判前整理手続において争点を絞って,めりはりのきいた審理を目指します。これとあわせて,証拠をたくさん取り調べていましたが,裁判員の参加する刑事裁判においては,争点の判断に必要不可欠な証拠に絞って取り調べることになっています。また,これまでは証拠が書類で出されていましたが,裁判員裁判では,見たり聞いたりすることによって理解できるように工夫していくことになります。それから,ごく一部ではありますが,審理の回数が多く,長期化する裁判は,事前に審理の予定をきちんと定めて審理の回数を限定し,できるだけ連日的に行えるようにする。これが我々の描いている裁判員裁判です。こういった目標達成のために,公判前整理手続が始まりました。
裁判員裁判をどのような手続で行うかについては,司法研修所で研究会を開いて議論していますし,手続検討のための模擬裁判を全国各地で行っています。模擬裁判の状況は,各地で新聞報道されています。この模擬裁判の目的の一つは,裁判員裁判に向けて新たなプラクティスを実際に行ってみることです。事件記録は仮のものですが,模擬であっても,本職である法曹も本気になり,真剣に行っています。この模擬裁判では,例えば,プレゼンテーションソフトを使って,わかりやすく裁判員に対して争点を示したりするなど,できるだけわかりやすい審理をするという工夫を行っています。こういった真剣に裁判員裁判に取り組む姿を公開して,議論してもらうことによって,裁判員裁判の広報的役割も果たしていると思われます。模擬裁判の中には,新聞記者の皆さんに裁判員になっていただいて,その体験も報道していただくという形式もあります。
次に選任手続の検討について御説明します。裁判員の選任は,国民にできるだけ負担をおかけしない形を作るために,海外の制度を調査をするとともに,アンケート調査を行って,国民が裁判員裁判に参加するにあたってどのような点に障害があると考えるかを調査して,それを制度に反映することを検討しています。

【戸倉審議官】

それでは,まず裁判手続の内容や裁判員の役割を具体的に示し,対象は何らかの形で利害関係がある,あるいは特に関心が強い,二次的な伝播をしていただける期待が強いという方に重点を置くという方針について,忌憚のない御意見をいただければと思います。

【渡辺委員】

当面は,オピニオンリーダーや企業の経営に携わる方,教員など,一定の影響力をもった方たちへの働きかけをしていくべきという方針は,懇談会メンバーのほぼ総意だったのではないかと考えます。そこからアプローチをしていくのが非常に合理的であろうと思いますし,裁判員にどんなことをやっていただくのか,その具体的なイメージを中心に広報していくというのも,当然の選択ではないでしょうか。そもそも,資料3のCDEを中心テーマにしようとしても,現時点ではまだ制度の姿というか細部が決まっていませんよね。姿が見えていないものを広報テーマの中心にするのはできない話ですので,Bから,しかもターゲットを絞って広報していくのが妥当なところではないかと思います。
ただ,国民の間に非常に関心があるところ,具体的にはBの選定手続やEの環境整備の話については,議論の煮詰まり具合や,進み具合をにらみながら,逐次情報提供して,議論を巻き起こし,社会全体で考えていただけるようにするとよいのではないかと思います。

【河本総務局参事官】

環境整備のための関係省庁への働きかけ方ですが,とりあえずは「裁判員制度の円滑な実施のための行動計画」等が策定されましたが,省庁に検討を促す方法などについて,御示唆いただくと非常にありがたいのですが。

【吉田委員】

裁判員制度広報の予算は,裁判所だけで年間約13億円ということですが,法務省は独自の広報予算を持っているでしょうし,また,弁護士会は独自の経費でしょうが,法曹三者総額で幾らぐらいですか。

【河本総務局参事官】

法務省が約3億円弱ですので,総額で16億円程度です。

【吉田委員】

それに加えて政府広報で支出する部分があるということでしょうか。
行動計画をつくったときに各省が集まって,協力の合意はできているはずですので,当然,後をフォローするためにいろいろな会議を持つと思います。そういうところにお願いして,常にフォローしていくというやり方はあると思います。

【河本総務局参事官】

おっしゃるとおり,裁判所としては,できるだけスパンを短くして相談をしたいと思っていますが,少なくとも半年に一度はこの行動計画の実施状況について報告していくというスキームは既に作られています。

【吉田委員】

裁判員の休暇を有給休暇にしようとすれば,休暇制度そのものも,かなり改正をしていかなければならない面が出てきます。あるいは,学校教育ということで言えば,文部科学省が各教育委員会に連絡をとっておかなければならない。裁判員制度に関する副読本のようなものをつくって,それを活用してもらうといった工夫もできると思います。さっきおっしゃっていたブックレットを使っていくことになるのでしょうか。

【戸倉審議官】

今回のブックレットは,学校での教育でも使っていただけるものと思っています。

【吉田委員】

各省それぞれの考え方があるでしょうから,なかなか難しい面はあると思いますが,こういうことを実現してほしいということをできるだけ具体的に連絡会議の場や,連絡会議のメンバーがいる機会に依頼していくことは,やるべきだと思います。
それから,1億数千万人を対象にするという広報は非常に難しいので,当面今年は,ターゲットをオピニオンリーダーに絞るということは結構だとは思います。しかし,一般国民にもこういう制度が導入されたということを知っておいてもらうという広報をあわせてやっていく必要があると思います。
昨日(10月17日)の新聞広告は,最高裁としては,ターゲットをどこに置いているのですか。

【戸倉審議官】

裁判員制度のさわりを御説明した内容にして,広く国民一般をターゲットにしたつもりです。ちなみに,広告を掲載した新聞の発行部数の合計は2,700万部と聞いております。
新聞広告で言いますと,現在全国で行っているフォーラムは,共催している地方新聞に,開催告知の広告が2回くらい掲載されます。また,終了後には,採録記事として,パネリストの発言内容などが掲載され,その下に更に裁判員制度の広告を出す予定です。全国47の地方紙と地方新聞社連合会が共催しておりますので,各地に2回以上は広告が掲載されることになります。

【吉田委員】

昨日の広告は全国紙だけで,地方紙には載せないのですか。

【河本総務局参事官】

地方紙でフォーラムの採録記事を掲載する下に,昨日の全国紙に掲載した,長谷川京子さんの広告と同じものを載せる予定です。恐らく長谷川京子さんは,広く国民一般の目を引き付けることができると思いますので,その後の特定の層に対する広報の導入的な役割が果たせればよいと思っています。

【戸倉審議官】

さらに,20の雑誌に,各2,3回,広告を掲載予定です。雑誌は新聞以上に読者層がはっきり分かれていますので,ビジネス誌にはビジネスマン向けの内容というように,読者層に合わせた広告を掲載したいと思っています。その中では,対談やインタビューという形で,裁判官を前面に出した広報もしていこうかと考えています。

【渡辺委員】

各省庁を動かすのは大変なことだと思います。どこまで前向きの意識を持ってもらうか,法曹三者で戦法や段取りを練っていく必要があると思います。例えば,連合の会長になられた高木剛さんは,司法制度改革審議会の委員として司法参加の重要性を非常に強くおっしゃってきた方でもあります。参加する側としてはこういう制度が必要だ,こんな環境整備が求められるといったことを,現在のお立場から問題提起していただく,ということも考えてよいと思います。

【藤原委員】

長谷川さんは大変好感度が高く,よかったと思いますが,文字が小さいので,読者は,「彼女は美人だな。」と思うだけで,さっと次のページに移ることになると思います。もっと文字を意識して欲しいと思います。ここに書いてあることはとてもわかりやすいし,よいことが書いてありますが,全体の中では字が小さ過ぎる。これは多分,広告会社が作って持って来たデザインだと思いますが,彼らにもきちんとブリーフィングをした方がよいと思います。デザインに走り過ぎていて,メッセージが伝わらないので,とてももったいないと思います。新聞は眼鏡をかけて読む人も多いと思いますが,これでは読みにくい。もっと級数を上げて,ボールドの字体でしっかり書いた方がいいと思います。デザインだけではなく,リードビリティーも,広告会社にきちんと伝えた方がいいと思います。

【吉田委員】

少しインパクトが弱いのではないでしょうか。

【藤原委員】

とても好感度は上がったと思いますが,メッセージがしっかり書かれているからこそ余計にもったいないなという感じです。掲載する前の試し刷りでチェックすべき点はそういうところです。

【戸倉審議官】

実はチェックしておりますが,素人の悲しさで,「わあ,格好いいな。」と思って・・・。(笑)

【平木委員】

文字が小さいなとは思いませんでしたか。

【河本総務局参事官】

当初案では,字の量はこの2倍ありました。それを減らしてここまできたのですけれども。

【戸倉審議官】

情報量を絞り込んで,文字は当初の案よりは大きくなってはいますが,確かに私もだんだん見づらくなってきますので,言われてみればそのとおりだと思います。週刊誌では今の御指摘を踏まえたいと思います。
恐らくクリエイティブと話をすれば,字が大きいとデザインが崩れますという意見が返ってくるでしょうから,最終的にどちらをとるかは,我々が決めなければならないことだったのだろうと思います。

【藤原委員】

それからもう一つ。家族の話題にしたいならば夕刊,センセーショナルに打ち上げるなら朝刊と使い分けた方がよいです。もし国民全体に,「この制度って何?」という会話をしてほしければ,夕刊が効果的です。家族の健康,食事などは,我々広告会社はほとんど夕刊に持っていきます。そうすると,それをテーマに家でみんなが話をしたり,少なくとも目についた人がそれを話題にすると思います。それから,サラリーマンも,気になる情報,例えば,自分の健康に関する血糖値,コレステロール値の情報などは,ほとんど夕刊で読みます。これもとても重要な点です。ビジネスマンだと,夕刊は会社で読んで,朝刊だけ家で取るという時代も昔はありましたが,もし若い人も含めて話題にしたいということであれば,夕刊も選択肢に入れておいた方がよいと思います。

【平木委員】

私は,昨日の朝刊の広告は読み飛ばしていました。とても慌てていて,ともかく必要なことだけを読んで出かけたからです。
広告を載せる場所を選ぶことができるなら,注文を出すとよいと思います。私はその前のページの森光子さんの広告には注目したのですが。

【河本総務局参事官】

おっしゃるとおりで,できればスポーツ欄の横か政治欄のすぐ横がよいかと思われます。実は,今回も3面の横をねらいましたが,ほかの広告との競合でこのページになってしまったという事情もあります。

【戸倉審議官】

今回は同じ日に5紙同時に掲載するという企画にしましたが,ある程度の期間の中で一番いい場所をとれる日に掲載してほしいという形ですと,もう少し掲載場所にも柔軟性が出てくると思われます。

【藤原委員】

シーズンにもよりますが,これから年末にかけては,ボーナスをねらった企業の広告がたくさん出て来ます。企業は,広告を打ってすぐに,コールセンターのような部署が,追い討ちでセールスプロモーションをするので,大きな広告は必ず月曜日に掲載されるものです。月曜日に打つと,「月曜日の広告見ていただけましたか。」と言えますが,「先週の金曜日の広告見てくださいましたか。」では話が通じず,電話を掛けられないわけです。だから,月曜日にとても強力なセールスキャンペーンの広告が入る率が高いのです。そういう広告と競争しなくてはいけないので,私なら月曜日は避けます。むしろ週の後半の夕刊をねらいます。
新聞広告は,そういう掲載紙面の綱引きみたいな問題もありますし,ほかの紙面と競合してしまうという問題もあります。その日にどのような広告が掲載されるか,当然新聞社の方は情報を持っています。記事の量が多いときは掲載されないこともありますし,それこそ飛行機の墜落事故の記事と同じ紙面に運悪くその飛行機会社の航空会社の広告が入るなどということが,たまにあるものです。ですから,週の後半の,できれば夕刊と朝刊に掲載するのがよいと思います。下手をするとお父さんが朝刊を持って出てしまうお宅もありますので,夕刊と併用するとよいと思います。

【平木委員】

メディアミックスの企画には,時間,朝か夜かなどと,曜日も企画要素の中にきちんと入れておくべきだと思います。

【篠田委員】

関心の高い層,因果関係を持っている層への働きかけは,一つは情報伝播,もう一つは御理解を求めて共感をもっていただく,この2つに分けた方がよいと思います。
情報伝播に絞って考えてみると,今は,新聞広告よりも口コミの方が効果が大きいと言われています。例えば,書籍の広告などは,書く作家側は,新聞に自分の書いたものがどれだけの分量をとって広告してもらえたかが一つのステータスにもなりますし,どれだけその出版社から自分が大事にされているかというようなところで神経質になりがちですが,実際のところ担当者に売上と広告の大きさとの関連を聞いてみると,必ずしも関係はないようです。特に全国紙の朝刊などですと,本によってはほとんど関係がありません。やはり,新聞広告は,とてもお金がかかるので,当然効果が大きいだろう,テレビだったらもっと大きいだろうという感覚がありがちですが,ものによっては普通の消費財を売るのとは違い,口コミの効果が大変大きくなってくると思います。
影響力の大きい人々をターゲットにするのはとてもよいことだと思いますが,その影響力の大きい人々は,一体どのような人なのだろうかと考え直してみるのも手だと思います。例えば,エコロジー関係の活動をしている方々とか,あるいはそういったものに関心を持っている方々のネットワークは意外に大きくて強力なものがあります。主婦層への強い影響力を狙うなら,そういったところに向けて出している女性誌などを活用していくのも一つの手かなという気がします。主婦層は,市民活動家の方々とも結びついています。メジャーな女性誌,あるいは週刊誌はそういった方々を購読者としていますから,その辺りに記事を書いておくとよいのではないかと思います。
また,先ほどの説明だと,広告とタイアップ記事とが混同されていますが,これは分けて考えた方がよいかと思います。国民の中でオピニオンリーダーになりそうな方々に向けて,重点的に情報を送り込むのであればタイアップ記事の方がずっと効果的だと思います。女性誌が特にそうですが,どれもこれもほとんどタイアップ記事ながら,一見すると一般の記事にしか見えないものが大変多いのです。そういったものを活用するとよいと思います。
それから,先ほどから討議されていますが,新聞広告は,文字も小さいですが,文章の意味もわかりません。「です・ます」調であれば,とても親しみやすくてわかりやすいと誤解されているのだと思います。一見して当たりが柔らかいように見えますが,大変わかりにくいものです。
むしろ,構造化された論理的文章の方が理解しやすいものです。正確を期して書かれているとは思いますが,日本語の文法自体が、こうした内容を知らせるには不向きで、少ない文字数ではさらにわかりにくくなってきます。箇条書きで伝えたい情報を一たん整理し、構造化して,活字の大きさなども変えながら,矢印や記号なども使って説明する方が,わかりやすいと思います。
この新聞広告は,まず,裁判員制度の意味や意義が来て,次にいつから始まりますといった書き方ですが,まず最初に「裁判員制度がいつから始まります」,次に「それはこんな制度です」,そして「それにはこんな意義があります」の方がわかりやすいでしょう。そして原則的なことを先に書き,例外的な部分はその後に出す。
実は,この会議資料も非常にきちんとした日本語で書かれていて,とても読みにくいです。(笑)

【河本総務局参事官】

ぱっと見てわからなければいけない部分を文章で書いてしまっているのでしょうね。

【戸倉審議官】

きちんと内容を伝えたいあまり,放っておくとどんどん書き込む情報量が増えるものですから,これはいかんと気づいて削り,今度は削り過ぎて,またわかりにくくなるということになってしまっているようです。

【篠田委員】

例えば,この資料3でも,大文字のAが何に対応していて,どの資料に対応しているかがすぐわかるように,Bについてはどこの部分で説明しているとか,どれとどれが因果関係があって,どれがその説明であって,それについての意見がどこにあるかときちんとわかるように骨組みをわかりやすくして書いて行く作業が必要だと思います。

【藤原委員】

気になった言葉遣いがあるのですが,資料4に,裁判員制度が導入されると,証拠の量が減ると書いてありました。これは誤解を招くかなと思います。証拠の量を減らすというのは,整理するということでしょうか,絞るということでしょうか。

【戸倉審議官】

これは絞るという意味です。

【藤原委員】

だとしたら,減らすと言うと,誤解を招くと思います。私なら,必要であればすべて証拠は示されなくてはいけないのに,どうして減らすのかと考えてしまいます。
そもそも減らすという言葉は,もしかしたら内々で使っている言葉なのではないでしょうか。「減らさないと,とてもじゃないけれども,一般の裁判員の方々にはお示しできないね。」という形でワーキンググループの方たちは考えているのだと思いますが,外向きに発表するときに,証拠の量を減らすというのはいかがか,表現としておかしいなという気がしました。

【平木委員】

きっと絞ると言う方がよいと思います。

【藤原委員】

厳選するという意味ですね。

【戸倉審議官】

必要にして十分な証拠を調べることが大前提ですが,これはまさに御指摘いただいて,はっとすることです。我々プロ同士では,今はかなり広範囲に証拠を調べているので,もう少し絞り込むことによって必要にして十分な量を十分確保できるはずだという前提で議論をしていますが,その説明なしにこういう表現を用いてしまうと,誤解を招きかねない。実は,プロだけがわかっていることを前提に広報しているのだという御指摘だと思います。

【藤原委員】

もう一つあるのですが,裁判員になることを前提にして書いてあると思うのですが,被告人になる人もいるわけです。その人の視点を欠いた裁判員制度の書き方は,私はよくないと思います。もし,私が被告人になったとして,これを見たときには,やはり証拠の量が少ないというのは被告人にとっては不利ではないかと考えざるを得ません。

【河本総務局参事官】

証拠がtoomuchだと思っているのは,我々プロだけということですね。

【藤原委員】

当然,一度被告人になったことのある方,刑を終えた方も裁判員になる可能性があります。とても人数が少なく,大変まれなことかも知れませんが,広報をする立場としては,善良な市民で,罪など絶対に犯さない人だけが裁判員になるという前提は必ずしも正しくないという気がします。

【河本総務局参事官】

御指摘のとおり,減らすに限らず,今後は語感をもっと大事にしたいと思います。

【藤原委員】

資料3に書いてある作業の中には,判決文に関して何か再評価するなどの施策が含まれているのでしょうか。

【鬼澤刑事局参事官】

判決文に関しては,これまでのように長々と書くのではなく,できるだけポイントを押さえて,的を絞った判決文にしようと,いろいろと工夫を重ねているところです。

【藤原委員】

そのこともやはり書いた方がよいと思います。判決文は,裁判に関わっていない人に対して,何をよりどころにしてこの結論に至ったかということを示す唯一のものです。新聞でも判決文はすべてのものが載るとは限りませんし,テレビ報道も抜粋くらいしか紹介されません。判決文の内容はとても重要だと思うので,判決文を簡素化して,わかりやすくきちんと骨子のわかるものにしたいということであれば,そのように取り組んでいることを示した方がよいような気がします。

【平木委員】

ビデオは3本見ましたが,それぞれ特徴があって,それぞれメッセージが違うものだったので,これはシリーズのように学校などで見せてもよいと思いました。
ただ,細かいことですが,どのビデオにも傍聴席のことが何も説明がなかったことが気になりました。どれにも説明がなくて,「傍聴席に証人がいるらしいなあ。」とか,「証人は外から入ってくることもあるんだなあ。」とか思うだけです。一体傍聴席にはどんな人たちが来てよくて,傍聴席に入るにはどういう手続をする必要があるのかといったことが,詳しくはなくてもどこかに入っていると,何のことなのかわかると思います。特に裁判員になる人は傍聴席にだれがいるかというのはとても気になると思うので,傍聴席のことについて,もう少し配慮をした方がよいと思いました。
もう一つは,中村雅俊さんが出ているビデオはそうでもありませんでしたが,あとの2つは,裁判員が評議する場面が,どちらかというと裁判員が裁判官と話しているシーンが多いので,裁判員同士で話しているシーンがもう少し欲しいと思いました。質疑応答になっているように見え,もしかしたら現実はそうなのかもしれませんが,私は,そうでないものであってほしいと思っています。

【河本総務局参事官】

意図はしていませんが,そう見えるとしたらよくないですね。

【平木委員】

辰巳さんのビデオが特にそうです。中村雅俊さんのビデオは,裁判員同士がお互いにやり合うようなシーンもあったので,そちらの方があってほしい姿かなと思ったのです。

【鬼澤刑事局参事官】

今,一本映画を制作中ですが,極力裁判員の発言を多く,裁判官の発言を最小限にするようにシナリオをつくっております。

【平木委員】

ただ,聞きたいことがたくさんあるからこそ,きっと裁判員は裁判官の方を向くのではないかとも思うのです。それは,現実にはあるだろうと思いますけれども。

【戸倉審議官】

できるだけ裁判員がいろいろ意見を言えるようにということで模擬評議を行っています。最初のうちは固いですから,1人の裁判員が発言されると,「ではあなたは今の意見はどうですか。」と,どうしても裁判長が出てしまうところが,本当に難しいなと感じているところでもありますが,少なくとも広報の映像では,このような形はいけませんね。理想に近いものを演出しなければいけないと思います。

【井田委員】

裁判員制度は,一般の人の感覚を裁判に反映させるという面と,一般の人に司法を理解してもらう啓蒙的な側面,あえて単純な言い方をするとすれば,一般の方から教えていただく側面と教える側面との両方があって,そのバランスは非常に難しいと思っています。
模擬裁判の新聞記事を見ると,かなり多くの新聞記事の中に,裁判官に説得されてしまった,あるいはこっちで何か言おうと思っても余りその意見が反映されるような感じがしないという記載が出ています。これはとてもデリケートな問題,大事な問題で,かなり慎重に対応しなければいけないのではないかと思います。つまり,裁判員として出かけていっても,偉い裁判官の人に一方的に説得されて,仕方がなくて同じ意見を出し,同調する意見を出して帰ってきましたというのでは,早晩,制度が行き詰ってしまうと思います。こちらの意見が目に見える形で裁判の変化につながっている,恐らくこれは,専門家の目から見ると,裁判員制度を導入することによって大いに変化しているわけですが,一般の人の目にも見える形で変化していくのが大事です。具体的にどうすればいいかは非常に難しいながら,少なくとも平木委員がおっしゃったように,裁判官と裁判員が話をしているだけのシーンばかり出てくると,ますますよくないのではないかと思われます。
例えば,殺意の認定に関して,裁判員という質問者が入ることによって,従来とは少し変わった認定,傷害致死が殺人未遂と認定される可能性が出てくるといったことが,あっていいのかという問題自体も十分検討しなければいけないとは思います。かといって,裁判官が一方的に認定について裁判員にお教えして,それに従って判断していくということでよいのかという問題もあると思いますので,ぜひ考えてもらいたいと思います。
もう一つ,先日人と話していたときに,裁判員が何をやるかイメージはつかめたような気がするが存在理由というか,なぜ裁判員がどうしても必要なのかということがいまひとつわからないという意見が随分ありました。なぜ我々が出ていかなければいけないのか理由がわからない,そんなにひどい裁判が行われていたのかと問われると,確かにパンフレットなどを見ても,その説明は非常に抽象的に書かれています。多角的に考える裁判というのは非常に吹っ切れる言葉ですし,ある程度裁判の正当性ができるという説明はわかりますが,何か抽象的です。外国の単なるまねですかと言う人もいました。

【戸倉審議官】

具体的にどう裁判が変わることを目指した制度か,裁判の内容がどれほど変わることが期待されてこの裁判員制度ができているのか,その中で裁判員がどう関与していくことが求められているかは,やや哲学的な話にもなりかねず,広報するには非常に難しいという実感を持っています。

【平木委員】

辰巳さんのビデオの一番最後に,「皆さんたち普通の人でもともかく貢献できるのだ,常識に基づいて判断してくださればいいのです。」といったことが文章でありました。私は常識という言葉が余りよくないと思いました。「ええ?常識って何?」と感じるので,何か別の言葉を使った方がよいと思います。

【戸倉審議官】

常識とは,ある程度客観的な存在のように使いがちですが,そうではないということですね。

【平木委員】

例えば,若い人たちにあのビデオを見せると,多分,「ぼくは常識がない。」と言うと思います。

【河本総務局参事官】

コモンセンスを訳して「常識」というと,変な語感が入りますね。

【平木委員】

そうです。それで,「ぼくは常識がないものな,行けないよ。」という反応をするかもしれない。

【戸倉審議官】

常識というものは,それぞれの人が生活してきて,自然にいろいろ身につけてきているものだという意味に受け取ってもらえていないということですね。

【平木委員】

私は,そういう意味のものにしていただきたいと思います。
例えば,「そんなの常識じゃない。」とよく言いますが,「常識」ではないことがたくさんあるわけです。「そんなの常識よ。」と言ってしかられることがあったりしますが,それは「常識」ではないかもしれないということもあります。

【藤原委員】

むしろ裁判員には常識が求められているわけではなく,人間としての多様な判断力というようなものが求められているのだと思います。「常識」というものが仮にこの世の中にあるとすれば,3人を9人に増やす必要もないということだと私は思います。多分,言葉が未完成というか,未成熟なのだと思います。ごくごく普通の会話では,「常識をはるかに超えた」という表現はしますが,それは必ずしもここで言っている「常識」と同じ意味のことを言っているのではないような気がします。

【戸倉審議官】

キャッチフレーズが,まさに「私の視点,私の感覚,私の言葉」というものですが。

【平木委員】

それでよいのだと思います。

【藤原委員】

私の視点ということが重要です。

【戸倉審議官】

おっしゃるとおり,それぞれの方が持っておられるものはそれ以外にないと思います。

【藤原委員】

現に殺意があったかなかったかなどの判断は,模擬裁判の参加者の中でもとても揺れています。刃物を持っていたということ自体,殺意があったと判断する人と,そんなこと言われたらだれでもみな殺意があるのではないかと言われたり。

【吉田委員】

井田委員もおっしゃっていましたが,なぜこの裁判員制度が導入されたのか,その意義は何かということが,なかなかわかりにくい。1回目の懇談会からいろいろ議論が出ていましたが,本来,すべての改革というものは,やはり現状に問題があって,その問題を新しい制度に変えることで解決し,よりよいものにするということだと思います。裁判員制度については,刑事裁判のどこに現状問題があるか,どうもそこがなかなかわかりにくい。いろいろ議論していくうちに,国民の多様な視点が裁判に入っていく,プロだけでない裁判が今までの裁判制度になかったものを築いていく,ということなのではないかと思いますが,やや抽象的です。何かほかにもう少しインパクトがあったり,わかりやすい導入の理由があれば一番よいのですが。

【戸倉審議官】

新聞記事を見て,やや戸惑いを感じるのは,例えば,「裁判官と裁判員の間にある溝が明らかになった。」と出たときなどです。そもそも同じ証拠を同じような見方をして,結論にそんなに溝があるものなのかと考えてしまいます。毎日裁判をやっている人間と,そうではない方では感じ方が違うと思いますが,そこはまさに議論をしていけば,自ずと結論はそんなに違ったものにならないのではないか,それぞれがそんなに特殊な感覚を持っているわけではないので,一致するものだろうと思ってしまいます。
さきほど井田委員のおっしゃったことですが,問題はむしろ,プロがやっていて,プロセスが非常にわかりにくいということだと思っています。今の裁判は,どのようなことが行われているか,傍聴席に来られただけではまずおわかりにならないだろうということが問題です。長い目で見ると,このような状態でずっとこれからも刑事裁判の正当性が維持できるのか,という疑問があったのだろうと思います。わかりやすくしようという算段をそもそもしていないし,周りから見てわかりやすいものになっていないというところに問題があって,結論に問題があるわけではないと思います。
ところが,まず裁判官と裁判員とはまったく違うものだから,どちらかがどちらかに引っ張られていくというイメージが拭えません。裁判官は一生懸命やりますが,一生懸命やると,今度は説得にかかっているというイメージになってしまいます。こういうものはどう解消していけばいいのかなと思っています。

【平木委員】

模擬裁判自体も裁判員制度をどうするか検討するプロセスです。そういう意味で,新聞社の方に特にお願いしたいのですが,模擬裁判だけの取材で記事を書かず,模擬裁判の後のフィードバックというか,振り返った検討まで入れて記事を書いてもらいたいと思います。あそこでこんなことが起こったからこれから考慮すべきことはこういう点ではなかろうかとか,これから裁判員裁判をするに当たっては,これからこういうことをこういう方向で考え直したい,といったフィードバックも入れた記事にしてもらいたいと思います。模擬裁判だけの記事だと,記者の印象だけになってしまいますので,模擬裁判をした人たちがどのような反省をしたかという点も記事にしてもらいたいと思います。

【鬼澤刑事局参事官】

実際に裁判員裁判が始まったら,間違いなく刑事裁判が変わったということは,みながあっと言うくらいわかると思います。公判が始まったら毎日のように法廷が開かれて,国民が忘れる前に判決が宣告されます。それまでは月一回の開廷ですから,第一回公判が始まったという報道がされても,次に第二回公判期日の報道を見るときには,前の公判の話は忘れてしまっています。それが,忘れる前に,裁判が始まり,こういう証人を調べた結果,このような判決だという一連の流れで報道されると,刑事裁判手続は変わったと間違いなく印象づけられると思います。我々が恐らくそうなりますよと一生懸命言っても,それがまだ現実のものとなっていないので,そこに広報活動の難しさがあると思います。

【平木委員】

ただ何か欠点があるから変えようという発想ではなくて,よりよいものにしようという発想であってもよいわけです。そのよりよいものにしようという発想で,国民を説得すべきなのだろうと思っています。欠点があるから変えようというのがほとんどの人の発想だとしたら,それはつまらないと私は思っています。

【河本総務局参事官】

今,全国で一般の市民の方が入った模擬裁判をどんどん行っていますが,終わった後に裁判官に聞くと,やってよかったという人ばかりです。思わぬ指摘を受けて勉強になったとのことでした。要するに,結論は今の裁判と違わないのでしょうが,検証の機会が増えるから,認定のプロセスに御指摘がたくさん出るのだと思います。ですから,たくさん視点が入ってくるのは,間違いなくメリットだと思います。わかりやすい審理をして,証拠を絞った結果,短く迅速になるのは,反射効だと思います。裁判の中身は変わらなくても,たくさんの検証を経た結論は,自信が持てるし,信頼されるだろうという言い方はできると思います。

【藤原委員】

それもやはり広報で表明していくべき事実だと思います。それから,第1回目の懇談会から申し上げてきましたが,そもそもこれは,国によってはもっともっと前に国民が権利として勝ち取ってきたものであるという認識はとても重要です。もちろん,最終的にどういう形で国民の参加が認められるかは,国によってさまざまかも知れません。こと裁判に関しても,もし国民が,専門家だけが密室で行うことが唯一のパターンであると思っていたとしたら,それは余りにも知識というか情報が欠落していることになります。そういうこともやはりあわせて語られるべきなのではないかという気がしています。

【渡辺委員】

専門家集団にお任せしていればよかったという,これまでのあり方を変えて,司法という権力の作用をみんなのものにしていこうという理念が原点にあるのだと思います。改革審などでの議論は,少しきれいごと過ぎるという面もありますが,突き詰めて考えていくとそこに戻ってくる。つまり,「立派な人たちにお任せしていればよい」ということではない国をつくっていこうという議論があったと思います。その原点から,いろいろ指摘されるような事象が反射効として出てくるのだろうと思います。司法をみんなのものにしていくという営みに,これから4年間じっくり取り組まなければいけないし,それは裁判員制度が始まってからも続けていかなければいけないことだと思います。
広報ビデオを見ての感想です。自分は裁判所の取材などをしてきて,幾らか法律用語にもなじんできたつもりですが,このビデオはなかなか難しいなという印象を持ちました。特に辰巳さんが出演されている方のビデオは,冒頭の説明がスピードが早くて追いついていくのがやっとという感じでした。以前,平木委員が,被害者・被疑者・被告人と言われると何がなんだかわからなくなるといったことをおっしゃっていましたが,同じような人は少なくないと思います。そうした認識を十分もって資料のつくり方を考えないと,見る側にはかなり難しいものになってしまうのではないでしょうか。
また,ビデオでは「刑事裁判には弁論手続というのがあります,その中に論告があります,弁論があります」と,短い時間の中で一生懸命説明しようとしていました。予備知識のない人が見ると,耳慣れない,しかも同じような言葉が相次いで出てきて,大いに戸惑うと思います。ビデオを見ていて,そもそもなぜ論告,弁論と言うのだろう,そんな言い方やめてしまえばよいではないかという気がしました。「検察側の最終意見陳述」「弁護側の最終意見陳述」でなぜいけないのか。念のため刑事訴訟法を見たら,現に「証拠調が終わった後,検察官は,事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない」「弁護人は,意見を陳述することができる」と書いてあって,論告や弁論という用語は法律のどこに書いてあるのか,結局見つけられませんでした。専門家集団がいかに閉ざされた言葉の中で刑事手続を進めているかということを実感した次第です。
もうひとつ,ビデオに出てくる「証拠の取調べ」という言葉の持っている感じと,実際に法廷でやる取り調べの現実との間にはかなり乖離があると思うのです。「取調べ」というとお巡りさんにぎゅうぎゅうやられるのかなという印象が一般的ではないでしょうか。
視点をどこに置いて,何をどう説明していくのか,今ある用語や慣行を所与のものとしないで,この際,変えるところは変えていこうという発想でやっていくべきではないかなと思います。そうした取り組みをまた広報していけば,刑事裁判をこのように変えようとしているのだな,法廷は変わっていくのだなということが人々にビビッドに伝わるのではないでしょうか。

【鬼澤刑事局参事官】

語感の乖離という点では,ビデオの中に「呼出状」とありますが,それを見て「呼出状とは何だ。」という抗議の電話が来たことがありました。

【渡辺委員】

私も,裁判員法に「裁判員候補者の出頭義務」とあるので,新聞記事にそのまま書いたら,司法関係を担当していない記者から「出頭?」と言われてしまいました。悪いことをした人が警察に出向く,というイメージなのですね。さきほどの「常識」という言葉にしても,「証拠の量を減らす」という言葉にしてもそうだと思いますが,1個1個のタームがどのように受け止められるのかをもう1回洗い直すことは必要かもしれません。

【戸倉審議官】

言われてみれば,論告などは,日常ではもう少し柔らかく,「検察官,御意見を。」と話していると思います。法律用語ですから,普通の言葉に直しにくく,一般的に受けとめられる語感とかなり違うものがあります。それを言い直すのが面倒だといって,正確性を優先して法律用語を使ってしまうという問題があるようです。

【平木委員】

「供述調書」という言葉も出ていますね。

【戸倉審議官】

それは「被告人の話を記録した書面」などという言い方でも言えなくはないですね。とても意識してやっているつもりでも,あちこちで引っかかってしまっていますね。

【平木委員】

そうですね。引っかかると,今後とても大変だと思います。

【河本総務局参事官】

分かりやすくしなければいけないということと,語感を大事にする,これは絶対に必要です。しかし,考えてみますと,出頭にしろ,言い渡しにしろ,これは義務が伴っており,違反すれば制裁があるわけですから,誤解を生むようなやさしい言い方というのは,かえって私は失礼だという気がします。だからこそ,言い方はいろいろあるのでしょうが,慎重に工夫しなければいけないと思っています。

【藤原委員】

もしそうであれば,義務が生じて,それを行わなければ制裁が科されるということもきちんと書いておくことが必要です。

【戸倉審議官】

今伺っただけでも,伝えるべきものがとても多いですね。
どういうものをこの時期に重点的に伝えていくべきでしょうか。
例えば,媒体としては,新聞がありますし,雑誌もあります。あるいはフォーラムのような集まってもらう企画もあります。ブックレットもできますが,この時期に何を一番先に伝えていくべきなのか,伝えるべきものが多いので,どういった順番で組み合わせて伝えていくのが最も効果的かという点が非常に難しく感じられますが,この辺はいかがでしょうか。

【吉田委員】

いろいろ媒体によって違うのではないかと思います。さきほどの新聞広告を使うのだったら,やはりこの裁判員制度が導入された意義,裁判員制度の概略の手続や,その結果裁判がどう国民に対して身近なものになっていくのかといったようなことだろうと思います。雑誌の対談も同じなのかもしれません。
けれど,ビデオになると,今度は,裁判員に選ばれたときに,具体的にどういう役割を演ずるかを中心に訴えるということになってくるのかなという気がします。
一般の人たちにとって一番の関心事は,自分が裁判員に選ばれたら一体どういうことをするのだろうか,プロに混じって自分が本当に被告人の有罪無罪を決められるのだろうかということだと思います。また,ふさわしい刑を決めねばならないということに,少し負担を感じているのだろうと思います。ビデオをつくることによって,刑事裁判の実態はこうですよ,それによってプロでなくても自分の感覚,自分の考えを持っていれば,その判断ができるのですよと伝えられると,自分が裁判員になるのもいいかなと,負担感が減ってくるのではないかという気がします。

【平木委員】

今はテレビを使うのは控えているのですか。

【戸倉審議官】

テレビは費用対効果の問題があります。いろいろな方に意見を聞きますと,この時期はどちらかというと,テレビスポットなどの短い時間の中では,制度の内容を伝えていくには向いていないのではないかということでした。例えば,導入まであと1年になりますよという時期,全体の機運を高めるようなときに,ある程度基礎知識ができていることを前提にやると効果的であるという話もありましたので,今年はテレビ広告は行っていません。

【藤原委員】

今までのディスカッションの中では,広告と広報が混同されています。テレビで広報をする工夫は,今からでもできなくないし,やるべきです。
取材を受けたり,いろいろな素材を提供して,テレビで取り上げていただくというのは,これは広報活動ですから,手間暇はかかりますが,お金はかかりません。広告であるとお金がかかってくるわけです。お金がかかる方法とかからない方法とあって,かからない方法であれば,私はテレビをもっともっと活用してもよいのではないかと思います。
特に取材の目的や姿勢をきちんと確認した上で行うのであれば,テレビでの広報活動は1年目からでもよいような気がします。テレビを使っての広告は,もう少し後の方で,制度が始まる間近になってからでも十分に間に合うような気がしますが,広報はテレビも視野に入れておいた方がよいです。
広告をする場合は,新聞広告であれば,何曜日に載せる,字はどれぐらいにするなど,お金を出すのだから,全てこちらが文句の言える話なのです。押さえるところはきちんと押さえないと,有効に広告費が使えたということになりません。事前にチェックして,字が少ないのではないかとか,この紙面の反対側では露出が少ないのではないかとか,タイミングが悪いのではないかとか,いろいろ言うべきことは言うべきです。

【井田委員】

テレビのドラマや映画で,裁判所の法廷等を借りたい,撮影させてほしいという申し込みは結構ありますか。

【大須賀広報課付】

あります。法廷は裁判で使っておりますので,なかなか応じられないのが現状ですが,シナリオ等を拝見させていただいて,できるかぎり応じています。

【井田委員】

父が映画監督ですので,盛んにタイアップ,タイアップと子供のときから聞かされてきました。要するに,ホテルに泊まらせてもらって撮影するかわりに,1カット,何々ホテルと名前を出したりするといったものです。法廷を撮影に提供したときに,裁判所の方で裁判員を入れてくださいと言って協力を求めるという方法もあるのではありませんか。

【大須賀広報課付】

よく使われるのは,東京地方裁判所の中に入っていくというシーンですが,それを見て,裁判所の入口はそれほど入りにくいところではないということがわかっていただけるかなとは思っています。記者につけていただく腕章に裁判員制度と入れるといった方法もあるでしょうか。

【藤原委員】

裁判所の建物が遠景ででも入るときに,そういった物があれば当然画面に入ります。

【河本総務局参事官】

まさに御指摘のとおりで,例えば,福岡高等裁判所は,玄関の横に標語とロゴマークを入れて大きな看板を置いています。裁判所の前から報道されるときには,それが毎回映っています。

【藤原委員】

特に重大で大変重い刑事裁判や犯罪は,当然テレビでも判決だけは報道されますから,そのタイミングを利用してもいいような気がします。

【鬼澤刑事局参事官】

標語を広報活動でどうやって活用していくか,何かよいアイデアがないかなと思っています。

【平木委員】

「育児なしとは言わせない」といって,男の人にきちんと子育てをしてもらうというスポット広告がありました。「育児なしと言わせない」という,あのフレーズは,私は結構効果があったのではないかと思います。育児に参加したかどうかはわかりませんが,そういう考え方が広がる可能性があったと思います。このようにだれか人気がある人に標語を使って広告してもらうというのはどうですか。

【河本総務局参事官】

心理学的に,いつも目に触れていると,やはり脳裏に残るものなのですか。

【平木委員】

残ります。何度も何度も出すのが一番効果的です。何度も何度も,また出てきたという感じで覚えてしまうわけです。

【藤原委員】

それから,広告の顔はあまり変わらない方がよいです。要するに,人間はすごいリッチメディアなのです。顔や表情,声が毎回変わると,記憶も分散してします。ですから,言葉もそれからそれを発している人物もなるべく変わらない方が,やはり印象に残ります。

【戸倉審議官】

先ほど篠田委員が口コミとおっしゃいましたが,具体的にはどのようにすると話題にしていただけるのでしょうか。

【篠田委員】

裁判員制度それ自体より,何かセンセーショナルな事件や判決に付随して,もしもこれが裁判員制度が導入されていたらというような話題に引っ掛けると,一番効果が大きいのではないのかと思います。裁判員制度が導入されますだけですと,なかなかまだ自分が実際にそれに当たるかもしれないと我がことのように考えるのが難しい状態です。どこかのだれかが裁判員として選ばれるかもしれないけど,まさか自分が,という感覚もあるでしょうし,あるいはそれ以前のものかもしれないのです。
一方で例えば,アメリカの裁判が報道されるたびに,陪審制が話題になったりしてはいます。また国内でも,一般国民が情緒的に反応してしまうような判決も出ます。いじめが高じての殺人や障害のある息子を母親が殺してしまったりといった事件の裁判などですね。このような裁判にあなたが裁判員として関わる可能性がありますよ,そのときあなたはどんな風に考え,判断すると思いますか,そういったことは,日常的な話題に十分になり得ると思います。
そうした流れを喚起していくには,キャッチフレーズなどを使って,この制度が導入されるということを広く認知していくというのも一つの手段だと思います。あるいは,ターゲットを定めていろいろな記事,タイアップ記事などを使って,導入された暁には裁判はどのように変わっていくのだろうかと考えさせるきっかけを提供するということもできるのではないかと思います。
タイアップ記事にしても,「人物」というのは女性誌の大きな柱で、影響力のある女の人たちが毎回登場してくるのですが,これが単にきれいな女優とか高名な文化人ではないのです。自分のライフスタイルを確立していて,社会的な問題,たとえば環境とか,途上国の貧困の問題とか,に対して関心も持っており,ときには具体的な活動もしている。そうしたイメージのあるタレントやキャスター,エッセイストなど,何となく世論をリードしそうな人々を起用するのも手ではないかと思います。

【平木委員】

それから,地方公共団体にビラなどを配ったり,宣伝などをするときには,女性センターをぜひ入れておいてほしいと思います。

【戸倉審議官】

やはり我々が初めてやる広報ですので,いろいろな御意見を伺えるのは誠にありがたいことです。
次回の懇談会は,ブックレットもできておりますし,フォーラムもかなり回数をこなしている段階になりますので,御意見を伺えればと思います。

【藤原委員】

フォーラムに参加された方が,とても熱心にアンケートにきちんと答えてくださっていると伺い,よかったと思いました。我々が関与するイベントでは,8割の人が書いてくれるということはまずありません。どういう方法でどういう人たちに呼びかけて,そのような熱心な方が集まったのかということをとても知りたいと思います。フォーラムが,制度を知る大変よい入口になっている顕れだと思います。アンケートの回収率がびっくりするような高率なのですから,どうしてこんなに関心を持ってくださったのかということを検証してみれば,将来何を続けていかなければならないかわかってくると思います。

【戸倉審議官】

どうもありがとうございました。