裁判員制度広報に関する懇談会(第1回)

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日時
平成16年7月22日(木)午後1時30分から3時30分
場所
最高裁判所大会議室
出席者
(委 員)
篠田節子,平木典子,藤原まり子,吉田弘正,渡辺雅昭(五十音順・敬称略)
(裁判所)
竹崎事務総長,小池審議官,戸倉人事局参事官,中村総務局第一課長,小林総務局付,今崎刑事局第一課長,大須賀広報課付

進行予定

  1. 開会
  2. 事務総長あいさつ
  3. 出席者紹介
  4. 会議の公開等
  5. 裁判員制度の概略に関する説明
  6. 意見交換
  7. 閉会

席上配付資料

  1. 裁判員制度広報に関する懇談会・第1回進行予定
  2. 意見をお聞きしたい点 -国民の積極的な参加を実現するために-
    • 裁判員制度に対する国民の認識についてどのように考えるべきか
    • 裁判員制度について特にどのような事柄を広く伝えていくべきか
    • 制度施行までの期間(約5年)にどのような方針を立てて広報活動を行っていくべきか
    • 広報活動を進めるに当たりどのような点を考慮すべきか
      • 情報発信の目的と情報の受け手の関係についてどのような点を考慮すべきか
      • 政府広報との連携についてどのような点を考慮すべきか
      • マスコミ等による広報活動との関係についてどのような工夫が考えられるか
      • 効果的な広報の手法や方法としてどのようなものが考えられるか
    • その他
  3. 井田良委員のご意見等(7月21日に委員からお聞きしたものの要旨)
    • 資料10の世論調査の結果を見て,「名称は知っている」「知らない」の割合が多いことに驚いた。この状態から制度導入の趣旨・目的を理解して積極的に参加してもらえるようにするのはかなり大変なことだと思う。
    • 裁判員それぞれの経験が裁判員としての職務にどのように生かされるかということをPRすべきだろう。
      例えば,主婦として家事をやり子供を育ててきた経験が,事件のこのような場面に役に立つといったような具体性をもった事柄を紹介することも必要ではないか。
    • 一番分かりやすいのはビデオなどのビジュアルなものだろう。学生から刑事手続の講義をずっと聞いているよりビデオを見た方がよく理解できるところがあると言われることがある。
    • 以前,ドイツ在住の親戚が参審員になったときに持っていた手引のような冊子を見せてもらったが,大変によくできた冊子であった。刑法の入門のような内容が書いてあり,大学でも使えそうだと思ったくらいである。
    • ドイツのように国民の意識の中に裁判に参加することが根付いていればよいが,日本にはそれがない状況である。新しい文化を作るようなものなので,直球を投げ込むようにまっすぐにしっかりと広報に取り組んでいかねばならないだろう。印象に訴えるものはかえって国民を誤解を与えることにもなりかねない。
  4. 裁判員の参加する法廷のイメージ写真

配付資料

資料1
通常事件と裁判員の参加する事件の手続の流れ(13KB)
資料2
刑事事件の概況(17KB)
資料3
裁判員選任手続の概要(401KB)
資料4-1
裁判員の職務の内容など(24KB)
資料4-2
裁判員の資格に関する事項(14KB)
資料5
諸外国の陪審制度・参審制度の概要(12KB)
資料6-1
平成15年裁判員制度対象事件の審理期間と開廷回数(8KB)
資料6-2
平成15年裁判員制度対象事件の審理期間別終局事件数(11KB)
資料6-3
平成15年裁判員制度対象事件の開廷回数別終局事件数(13KB)
資料6-4
平成15年裁判員制度対象事件の地方裁判所管内別終局事件数(12KB)
資料7
裁判員制度施行までのスケジュールのイメージ(26KB)
資料8-1
平成16年度裁判員制度広報のアイデア
  1. 既に実施したもの
    • 最高裁ホームページの改修
      最高裁ホームページ上に「裁判員制度」のコーナーを設置
    • リーフレットの作成
      簡単なリーフレットを作成→来庁者に配布
    • ポスター提示
      裁判員制度のポスターを15万部作成→各地の裁判所に掲示,地方公共団体・大学・高校・図書館に掲示依頼
  2. 今後実施を検討しているもの
    • 裁判所広報誌「司法の窓」裁判員制度特集号の発行
      9月下旬を目途に,裁判員制度を特集する増刊号を発行
    • リーフレットの作成
      より詳細なリーフレットの作成を検討中
    • ビデオの作成
      手続概要を内容とする15分程度のビデオの作成を検討中
資料8-1
平成17年度裁判員制度広報のアイデア
  • 広報用ビデオの作成
  • 裁判所広報誌「司法の窓」裁判員制度特集号の発行
  • 裁判員制度の専用ホームページの設置
  • インターネットバナー広告の実施
  • テレビのスポット放映(政府広報枠の利用を検討)
  • 新聞・雑誌等による広告
  • イメージキャラクターの作成
  • タウンミーティングの開催
  • 裁判官等による出張講演会
  • 大型広告モニターの設置
資料9
「裁判員制度」広報に関する検討の態勢(32KB)
資料10
国民の裁判員制度に対する意識(75KB)

第1回会議録

※ 懇談会の公開に関し,司法記者クラブ所属の記者の傍聴を認め,発言者を明示した会議録を公開することで各委員了承

【小池審議官】

それでは,早速会議に入ります。
まず,お手元の資料について簡単に御説明申し上げます。

【今崎刑事局第一課長】

それでは,裁判員制度の概要を御説明させていただきます。
資料1を御覧ください。これは,通常の事件と裁判員の参加する事件の手続の流れを対比したものです。
左側が現在の手続です。刑事裁判では,検察官による公訴提起,起訴とも呼びますが,を受けて裁判所において法廷での審理が行われますが,通常,裁判と呼ばれるのはこの部分です。その後,裁判官が評議を行って判決の内容を決め,最後に判決を宣告する,これが現在の手続です。
右側が裁判員の参加する手続です。まず準備手続,争点整理があります。従来は,予断排除の原則という,裁判所は審理が始まるまでできる限り証拠あるいは事件の内容について触れないようにすべきであるという考え方が強く,そのために,裁判が実際に始まるまでに審理計画を立てて裁判を始めるということが難しいという事情がありました。しかし,それでは審理を始めてみないと裁判の回数や,証人の人数などが分からないということにもなりかねず,特に裁判員が参加される裁判では非常に困るので,「準備手続」がありますが,裁判の準備のための新たな制度が導入されることになりました。これは,事件の判断に影響しないように気を付けながら争点を整理し,審理計画をきちんと立てることによって,更に審理期間を短縮し,裁判員に分かりやすい審理を実現していくという考えの下に設けられたものです。
次に,裁判員の選任手続があります。具体的な内容は資料3のとおりです。
この後,法廷における審理があります。基本的な仕組みは今の裁判と変わりませんが,裁判員の負担を軽減するとともに中身について十分に理解して判断していただける審理を行うために,審理の方法については検討を続けているところです。
裁判員裁判をイメージしていただくための参考として,席上に法廷のCGを配布しています(*席上配布資料4)。法廷の構造というものも,裁判員が入ったからといって従来と根本的に変わるというわけではありません。したがって,法廷も今の法廷を基礎にするということになります。裁判員が審理に集中して臨めるように,あるいは,証拠や事案の内容をしっかりと理解できるようにという観点から,裁判員の参加する裁判で使用する法廷の構造を検討し,作ってみたものです。
1枚目(*席上配布資料4-1)と2枚目(*席上配布資料4-2)は,裁判官を中心に9人の裁判官・裁判員が横に並んでいます。法卓という裁判官・裁判員の前の机が弧型に曲がっているので,アーク型と呼んでいます。1と2の違いは,補充員の席の位置です。補充員とは,裁判員が何かの事情で裁判に関与できなくなった場合に,代わって裁判員になるために裁判手続に参加しておいていただく人で,1は9人の裁判官・裁判員の両端にそれぞれ2人ずつ,2は裁判官・裁判員席の後ろにそれぞれ2人ずつを配置しています。
「法卓アーク型小」(*席上配布資料4-3)は,法廷の幅をやや狭くしたものです。法廷が小さくなるので,補充員は前に座る型になっています。
最後の2枚(*席上配布資料4-4,5)は,「法卓2段型」と呼んでいます。これまでの3枚と違い,2段に分けて座るイメージです。大・小とあるのは,法廷の幅にも大・小があるので,これを想定したものです。
これらはあくまでも現在検討中のイメージで,今後も更に検討を続けるものです。
それでは資料1に戻ります。審理の後,評議があります。これは従前の裁判官による評議が裁判官と裁判員の評議になるという違いだけです。そして,判決が宣告されます。
続いて,資料4-1は,裁判員の職務の内容等をまとめたものです。裁判員が扱う事件は,死刑,無期懲役・禁錮に当たる罪,法律で合議で裁判をすることが定められ,故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪です。具体的には資料6-1に挙げられているような罪名の事件,つまり強盗致傷とか,殺人といった事件が裁判員制度による裁判の対象になります。
また,資料4-1にありますように,参加する裁判体の形式は,裁判官3人,裁判員6人,合計9人の裁判体で,一定の場合には裁判官1人,裁判員4人で審理をすることができます。
資料4-2は裁判員の資格についての説明です。一定の理由がある人については裁判員になることができないとなっています。逆に言えば,このような事由がない人は裁判員になる資格があるということです。
また,資料4-1に記載しましたように,裁判員の義務については,公判期日,つまり裁判が行われる日や,裁判内容を決めるための評議に出席すること,公平・誠実に職務を遂行すること,評議の秘密あるいは職務上知り得た秘密については必ず守ることなどが法律に規定されています。守秘義務は,評議における自由な発言を確保するとともに,他人のプライバシーを保護するため,課されているものです。
裁判員の権限については,基本的には裁判官と同様のことを行う権限があり,評決においても同様の評決権があります。
裁判員に関して禁止されている事項も資料4-1にあるとおりで,裁判員に対して一定の働き掛けを行うこと,雇用主が裁判員になったことを理由に不利益な取扱いをすること,裁判員を特定できる情報を公開することなどが禁止されています。
資料6-1ですが,これは平成15年の統計で,裁判員制度が実施された場合に対象となる事件について,現在,裁判がどのくらいの平均審理期間で行われているか,どの程度の開廷回数で審理されているかということを示したものです。例えば,一番上の強盗致傷は,大体7.2か月かけておよそ5回の開廷回数で審理をしていることが分かります。
ただし,裁判員制度が始まった場合にも審理が必ずそうなるというわけではありません。準備手続などを活用することによって,開廷回数を減らしたり,さらに立証をスリム化したりして裁判員の負担をできる限り軽減するということを検討しているところです。
資料6-26-3は,裁判員制度の対象事件を,罪名別でなく,全体として審理期間と開廷回数の別に見たものです。資料6-3にあるように,全体の平均では3回で終わっている事件が一番多く,7回ぐらいまでで終わっているものがおよそ5分の4,さらに10回を超えるものが1割ぐらいです。1割とはいえ,10回を超えるということになると,裁判員の方においでいただいて審理をするということは相当な負担になろうかと思います。これを減らしていかなければいけないというのは先ほど申し述べたとおりです。
資料6-4は,平成15年度の裁判員制度の対象事件について,各地方裁判所別の終局事件がどのくらいあり,その場合に裁判員は何人必要か,候補者はどのぐらいになるか,仮定の計算をしたものです。現在の選挙人名簿登録者数から候補者に選ばれる割合はどのくらいになるだろうかというものも試算してみました。全国平均では0.14%,およそ700人に1人の割合になります。最大は大阪の0.25%,400人に1人,最小は秋田の0.04%,2,500人に1人といった割合です。ただし,候補者の数50人は全くの仮定です。ある事件について裁判員を選任するために何人ぐらい裁判所に来ていただくかは,出頭率がどのぐらいになるか,候補者の中に不適格者や辞退者がどのぐらい含まれるか,当該事件について補充員の人数を何人にするか,といった幾つかの要因によって変わってくるので,実際には事件ごとにそういった要因を考えながら,余裕を見た人数で裁判員候補者に裁判所に来てくださいと声を掛けることになります。
以上です。

【小池審議官】

制度のアウトライン等については,議論していく中でもう少し御説明する機会もあると思います。
それでは,裁判員制度について,国民の方がどのような認識をお持ちなのか,また,国としてどのような体制でこの裁判員広報を行っていくのか,という点について御説明します。

【戸倉人事局参事官】

それでは,資料10を御覧ください。
国民の意識について,現時点で最高裁として独自に調査したものはないので,5月の読売新聞の調査の結果をまとめました。
一番上の円グラフは,「裁判員制度を知っているか」という質問に対する答えで,薄黄色の部分の「名前は知っている」というのをどう見るか。名前までなら7割が知っているという見方も可能ではありますが,見方を変えてこの40%を「知らない」に入れると,結局65%くらいが内容についてはまだ知らないとなります。このように裁判員制度の認知度は現時点では決して高いものではありません。今後,我々が広報をしていく前提として,かなり厳しいところからスタートするという見方もできようかと思います。
次の棒グラフは,左が制度導入の賛否です。半分くらいの人が「賛成」ということですが,赤い部分の「自分は裁判員としては参加したくない」という意見が約7割です。総論には賛成であるけれども,各論ではちょっとしり込みしているという状況が見て取れます。
一番下の棒グラフは,「裁判員として参加するためにどんな条件が必要か」という質問の答えです。環境整備といった問題もありますが,それよりもまず「分かりやすい裁判」ということが一番に挙げられています。国民サイドから見ますと,まずもっては自分たちが裁判をきちんとできるかというところに非常に強い関心と負担感,不安感を抱いているのではないかと見て取れます。
これはあくまで一つの調査ですが,現時点での国民の一つの受けとめ方の一端を示すものではないかと考えています。
資料9は,広報活動の内容を検討する前提として,国あるいは最高裁や法曹の広報体制について説明した資料です。左が最高裁の現時点での体制で,広報関係のプロジェクトチームを設置しました。同時に,裁判はほとんどが現場,つまり各都道府県で行われるもので,広報活動も地方で相当部分を進めていく必要があるため,高裁・地裁において,裁判制度全般,あるいはその中で裁判員制度広報を各庁で企画立案していくという体制作りを進めています。この資料では便宜上「広報委員会」と書いていますが,必ずしも名称はこの限りではありません。
右側が,法務省・検察庁の体制です。新聞報道にもあったように,法務省に裁判員制度啓発推進室が設置されました。
弁護士会も裁判員制度実施本部を立ち上げ,その中に広報チームを作って,裁判員制度の広報を検討していこうという体制です。
上にある政府広報,これは必ずしも裁判員制度に特化したものではありませんが,従来からあります政府の広報体制ともこの法曹三者の広報体制が緊密に連携をとりながら,裁判員制度広報を進めていく必要があろうかと思います。
特に法曹三者は,裁判員制度を運営していく責務を負う者として,密接な連携をとって広報活動を行っていくことが不可欠です。従来はそれぞれのいろいろな立場,主張もありましたが,今後は三者で密接に協議等をして,それぞれの特長を生かしながら,国民から見て整合性のとれた広報活動を展開していく必要があるものと考えています。

【小池審議官】

今日は第1回ですので,フリートーキングでお願いしたいと思います。席上に配布した資料の2枚目に,「御意見をお聞きしたい点」というメモがございますが,これはプロジェクトチームで議論していたときに悩みとして挙がったものです。一体どのようにこの問題を考えたらいいのか。テクニカルな広報活動をどう進めていくかという問題よりは,総論賛成,各論消極という状況をどう見て,どのような事柄を国民に伝えたらよいのか。何となく裁判所へ来ていただくというものではなく,制度の趣旨を理解して裁判に取り組んでもらうという難しさをどう見て,どのように広報活動をしていくか。このあたりが悩ましい根本的な問題だと思っているのですが,まずそのあたりから御意見,御感想等をお聞かせいただければと思います。いかがでしょうか。

【藤原委員】

今日御欠席の井田先生からのメモ(*席上配布資料3)に,ドイツの参審員にかかわる御親戚の方を通じての御経験談がありました。制度を根付かせるためには,5年後に発足させるということ以上に,非常にたくさんの力を注ぐ必要があるという認識を持つ必要があるのではないかと思います。その上で逆算していって,5年後までにはどういうことをしなくてはいけないのかということを考えるのがよいのではないかと思います。
青年たちの成人式の様子がよくテレビで放映され,いろいろな事件が起こったり問題が起こったりという事実も報道されています。若い方々が成人するというのは大変大きな節目であり,全国的に取り組めるのであれば,まず成人式を一つの機会として,国民としての権利と義務を知らしめ,その情報の中にこの裁判員制度についても事細かく,しかし,その精神は高らかに分かりやすくうたってあるといったものを広く配布するのがいいと思います。成人式のような会を地方自治体で催すかどうかは別にして,大人になった印,成人した印にまずはそのような小冊子が広く配られるということはいいことなのではないかなと思います。どこの家庭にも,成人を迎えた子供がいれば,必ず1冊や2冊はあるというタイプの何か小冊子のようなものが考えられると,大変よいのではないでしょうか。それは,裁判員に選ばれたときに活用するのはもちろん,それ以外にもいろいろな裁判のニュースを聞くにつけ,そのときどきに出してきては見るような形で活用できる,そういう情報が一つのパッケージとなっていることは大変重要ではないかという気がします。
また,井田先生もドイツの例でこのようなことをお考えだったとありますが,まず広く知らしめるというか,広く人々に身近なものとして認識してもらうためには大変息の長い活動が必要で,そのためには,ここにドイツの例が示してありますけれども,諸外国の様々なケースを研究して取り組むというのは大変よいことではないかと思いました。

【小池審議官】

制度が動き出すところから逆算して,というお話がありましたけれども,吉田委員はこれまで制度を作ることについていろいろと御経験がおありかと思いますが,いかがでしょうか。

【吉田委員】

藤原委員がおっしゃったことは,誠にそのとおりだと思います。さらに,そういった分かりやすいパンフレットといいますか,教科書といいますか,そういうものを成人式の中で配るとか,成人のいる家庭に配布するということと併せて,5年先の話ですから,高校生もいずれ対象になるわけですし,学校教育の場でもそういうものを教えていくということも大事なのではないかなと思います。
資料10の裁判員制度に対する意識で,制度導入に対する賛否というのがちょっと意外に思ったのですが,「賛成」が50.4%しかない。これは国会では全党一致で通った法律だったと思うのですが,そういう国会と一般の国民との温度差といいますか,落差がかなりあるのかなという気がします。50.4%が「賛成」で「反対」は39.8%ですが,なぜ「賛成」が比較的少なく50%しかなくて,「反対」が39.8%もあるのか。その辺の理由は何かあるのでしょうか。この調査の中で,どういう理由で賛成,どういう理由で反対という調査はされているのでしょうか。

【戸倉人事局参事官】

これは新聞社の調査結果なので,勝手なコメントはできないのですが,今なぜ裁判に国民が参加するのだという理由づけに関わっているのだと思います。
非常に積極的意義を見出す方もおられると思いますが,他方,かつて審議会の初めのころの議論の中では,今の刑事裁判に問題があるかという見方をしたときに,別に何も問題ないではないか,十分国民の信頼に応えているではないかという議論もありました。もとより,よりよい制度にするという積極的な動機はあるが,自分としては参加までは必要ないだろう,むしろこういうものはプロに任せた方がいいんだという考えの方も国民の中にはおられると思います。そういう方がもしこう聞かれれば,制度も反対だ,かえってプロの方がいいんだという考えがあるかもしれません。反対の理由はいろいろあるとは思いますが,制度導入と自分は参加しますかという問を分けて問われたら,むしろ制度論として今のまま変える必要はないという考えもあったのかもしれません。これはあくまで想像ですが。

【吉田委員】

私もいろいろな理由があると思います。一つは,今挙げられたように,特に刑事裁判については全く専門家の世界のことで,高度な法律的な知識を持った人たちが判断するので一般の国民にとっては非常に参加しにくいと感じているということがあると思います。あるいは,大きな事件について自分の責任で,この人は有罪だ,この人は無罪だと判断するについては,全く自信がないといった気持ちを持っているということもあるかもしれません。もう一つは,実際に裁判員になると相当期間時間的な拘束をされます。選挙でも当日に行って投票すればいいのに投票率は50%台とか60%台という状況ですから,まして裁判員になって数日間拘束されるということになると大変な負担があるという気持ちもあるのかもしれません。
どのようにしていったらいいのかというのはなかなか難しいのですが,今なぜこの裁判員制度を導入したかということについて,どうも分かりにくい面があると思うのです。制度として国民参加ということはいいことなんですが,なぜ今の段階で導入したのかということだろうと思うのです。具体的には今の裁判制度,刑事裁判について,どういう問題あるいはどういう弊害があって,それを回復するためにはどういうことをする必要があって,この裁判員制度を導入することによって具体的にどういうメリットが出てくるのかということが新聞を読んでもよく分からないという面があります。裁判員制度を導入することによって具体的に何が良くなるのかということも明らかにしていくということは大事なことなのではないかなという気がします。

【平木委員】

今,吉田委員がおっしゃったこととほとんど同じようなことを私も考えているのですが,裁判というものに対して国民が持っているイメージというのは,はっきりしているわけではないながら,ものすごく固くて,しなければならない義務とか,面倒くさいこととか,多分そのようなものが山ほどあるようなイメージだと思うのです。今,国民が傾向として持っているのは,面倒くさいことはなるべく他人や機械に任せて,自分たちはそういうトラブルのあるようなところには参加したくない,できれば気楽に過ごしたいみたいなムードの中で,裁判員は最も世の中で大変なことを受け持たなければならない仕事だというイメージがあると思うのです。それはそのイメージで,それなりの責任をとるつもりで参加していただくことはいいことだと思いますが,そちらばかりだとイメージがどんどん下がってしまいます。これは私の印象ですが,裁判というのは,何か悪いことをしたら裁かれるというだけではなくて,ヒューマンエラーの何かを償う方法を教えてもらえる場でもあるという,そんな感じがしています。もちろん,殺意がある人たちとか,そういう人たちにヒューマンエラーなどというのんきなことは言っていられませんが,人は不完全なので過ちをすることがあり,その過ちをしてそれを償うときに裁判というところで考えてもらうと,それ相応の公正で公平な何かが償えるのだという場であってほしいと思っています。今の認識は恐らく全然そんなふうにはなっていないと思います。今,「ねばならない」という義務的なものの方がものすごく強い印象です。そういう意味では,マスコミの方がいらっしゃるところで申し上げるのはちょっと気恥ずかしいのですが,最初に裁判員制度のことを新聞が取り上げたときに,私がまずとても印象深かったのは,裁判員というのはこんなことができるんですよということを言ってくださるというよりは,こうしなければならない,こういう義務があるとか,秘密は守らなければならないとか,そちらの方の印象がものすごく強くて,そういう大変なことをさせられるのが裁判員という印象になっているような気がします。少なくとも私はそういう印象を受けました。そうではなくて,「ねばならない」ことをやらなければならない場ではなく,私たちにはこんなことができるんだという方向で何かPRをしていただきたい,裁判員のいいところ,こんなことが一般の人が参加するといい面があるんだとか,努力をしたり,尽力をしたりした結果こういういい成果が上がるんだという方向で何かPRをしていただきたいと思っています。そういう意味では,ポスターの「皆さんが刑事裁判に参加する制度です」というのはいいなと私は思っています。

【篠田委員】

資料10を見た限りですが,この制度自体について,まず「知っている」と「知らない」というのがあって,「知らない」,「よく知らない」という人たちがかなり多いということで,広報活動していく上では,まず第一段階として制度自体を知らせていくと。実際に,まだちょっと聞いてみて,「そう言えば論議されているね」みたいな話はありますが,既に国会を通っていて,導入するかどうかの段階ではないんだ,もうどのように運営してやっていくか,運用していくかの段階に入っているということを知らない方が実は結構いる。これがまず広報の第一ではないかと思います。
なおかつ,知らせた後に来るものですけれども,非常に抵抗感がある。それが「裁判員制度に対する意識」と,それから「参加するための条件」というこの二つに現れていると思うのですけれども,大変に抵抗がある。「これは私の権利であり義務であるから,ぜひやりたい」という方は少ない。これはどういうことかというと,知った上で二つに分かれていて,一つは,人を裁くことに対しての感情的な恐れと抵抗感がある。もう一つは,生活上の支障ということで,これは全く違う動機ですので,それぞれどのように広報して説得していくかということになってくるかと思うのです。この感情的な恐れ,抵抗感については,一つは知らないということなので,これをどのように知らせていくかという問題になってくる。もう一つは心情的なもので,「そもそもこの私が人を裁くべきではない」という,かなり根っこの深いところで,人が人を裁けるかといった哲学的なところになってきます。それともう一つは,制度自体の導入については,「はっきり反対とは言えないけれども,どちらかといえば反対」の40%近くの人々が当てはまってくるのではないかと思うのですが,専門家ではないので高度な司法的な判断はできないのではないかと,さっき吉田さんのおっしゃった,まさにそのことだと思うのです。これは,この辺の層をどのように説得していくかというところになってくるかと思います。
この恐れと知らないという部分に対しては,ここで随分対策が述べられています。例えば啓発・啓蒙していくに当たっての冊子とかビデオの作成とか,いろいろ対策を考えられると思うのですが,これは裁判員制度についての冊子,裁判員制度そのものについてのビデオみたいなものだとやはりかなり不完全で,裁判についてのものでもかなり不完全と考えています。私自身がよく小説の中で,主人公が何かやって,捕まってくる。例えば,横領をやってしまうとか,著作権法違反とか何かで捕まるという場面を出すことがよくあります。その度に,「ちょっと待って。このとき,警察官はどうやってやって来るの。だれかが通報することによって分かってしまうことが多いんでしょうか。どうするのかしら。」みたいなところで,その度に刑事訴訟法の教科書を出して来ますが,全然イメージとして分からない。そこからどのように裁判になって判決までいくのかという一連の手続上の流れがまず分からない。これも裁判だけではなく,裁判に至るまで何が起きてくるのか分からない。「司法警察官」と書いてあるけれども,「警察官」の上に「司法」がついていること自体なかなかぴんとこない。その辺の裁判を含んだ大きな司法の手続の流れが分かっていないので,ケーススタディーとして,一つ何か疑いをかけられて容疑者となって捕まって裁かれるまでというところを一連の流れにしてビデオみたいな形で作っていただかないと,なかなか裁判員制度の説明だけでは分かりにくいかもしれません。これは裁判員に選ばれた人というだけではなくて,国民全体が,逮捕状はどのようにとるのかとか,何日間拘置できるのか,起訴と不起訴はどういうところで分かれてくるか,それは刑事訴訟法の教科書を見れば分かるけれども,イメージがとにかく分からないです。どこの段階で弁護士さんを呼べるのか,当番弁護士さんとはどんな人で,いつ来られるのか,国選弁護人はどこからつくのか,その辺の細かいことが全然分かってこない。単に裁判員制度だけではちょっと足りないので,「もしあなたが」というところからビデオなり冊子なりを作っていただけるとありがたいなというのは,全く司法については分からない人間からの意見です。

【小池審議官】

ありがとうございました。
今回の裁判員制度は,刑事司法全体をどう改革していくかという中の一つの局面でして,今御指摘がありましたように,捜査とか,被疑者弁護の段階からトータルで考えていかなければいけない。つまり,裁判員制度だけではなくて,実は公的弁護制度の問題であり,刑事司法全体の大変革の中の一コマに位置付けられます。まさにそういうことを念頭に置きながら考えませんと,この裁判員制度の意味合いというのも正しく理解されないというところは,御指摘のとおりだろうと思っております。

【渡辺委員】

篠田さんがおっしゃったのは本当にそのとおりだと思いますし,吉田さんも学校教育の重要性を指摘されました。現在,主に法務省を中心に,法教育への取り組み,つまり子供のころから法律の基礎や法的な考え方に対する教育をどうやっていくべきかということが検討されていると聞いております。司法制度改革審議会の意見書にも法教育の重要性が盛り込まれていました。効果的な広報手段を考えるのはもちろんですが,そういった社会全体の動きと有機的にどう結びつけていくかという視点が今後必要なのだろうと考えています。
今回の裁判員制度の導入に至る経緯を取材していて思ったのは,国民が自ら進んで司法参加を求めたということではなくて,言葉は悪いですけれども,「上からの改革」であったということです。その辺が,陪審制度などがいろいろ批判を浴びながらも根づいているアメリカなどとの大きな違いだろうと思います。5年後にきれいな形でスタートするなどということは,私は正直言ってあまり想像していないし,期待もしていません。5年後に始めてみて,いろいろな経験や試行錯誤,失敗を積み重ねて,その中で定着を図っていくという話で,5年間という期限にとらわれずに,まさに井田先生がおっしゃっているような国民意識の改革といった長いレンジでの視野を持って話していかなければいけないテーマだろうと思っています。
この読売新聞の調査を見ても,「名称は知っている」というのは,言葉を変えて言えば「内容は知らない」ということだろうと思うのですけれども,このような調査では,とりあえず「名前は知っている」と答えておかないと恥ずかしいかなといった心理が働くと耳にしたことがあります。この数字自体が実態よりもまだ大きな数字なのだと,そのくらいの認識でこの制度に向き合った方がいいのかなと思っています。とにかくこの社会の中で「裁判員制度」という言葉を見る機会を増やしていく。電車に乗ったら,窓ガラスに「裁判員制度が始まります」というステッカーが貼ってある。インターネットを利用していると,「裁判員制度を御存じですか」というメッセージがポンと出る。そんな形で,まずこの言葉に触れる状況をたくさん作っていって,「裁判員制度って何なんだろう」とみんなで思ったり,考えたりするきっかけを増やす。関心を持った人がすぐに調べられるようホームページを紹介し,あるいは皆さんおっしゃっている小冊子を用意する。そんなふうにだんだん誘導していく広報にしていかなければいけないのではないかと思います。
もう一つ。制度の定着には専門家が果たすべき役割が大きいと思います。私自身,「じゃ,おまえが裁判員をやってみろ。」と言われたときにすごく怖いと思うのです。やはり人を裁くことの重みをものすごく感じるだろうと。ここで必要なのは,「法的な判断については専門家がきちんとサポートしていきます。別にあなたに法律の解釈をしてくれということではなくて,いろいろな人の証言を聞き,証拠を見て,実際にあったことは何なのかということを,あなたの培ってきた社会常識や体験を踏まえて判断してもらう,そういう制度なんです。」ということを分かっていただくような形での広報活動が,この先とても大切になってくると思います。「この部分は専門家がしっかり引き受けます,専門家がこういう形で皆さんをいい意味でリードしていきます。」ということを示し,一般の国民に安心感を付与していくことが,裁判所だけではなく,法律に携わる専門家のこれからの大変大きな使命ではないかなと考えています。

【小池審議官】

井田先生がおっしゃっていたのは,例えば,大学の法学部の学生さんと話をしていると,裁判員制度は知っているし趣旨は賛成だと言っていても,夜のコンパになると,「先生,そうは言ってもなかなかみんなやらないよね。」と,まずそういう感じであると。先ほど平木委員もおっしゃっておられましたが,義務というところが強調されていて,権利というのでしょうか,どのように裁判ということに貢献できるのか,プロの裁判官がやっているところに新たに国民が加わったことによってどういう貢献ができるのか,抜本的に事実認定が変わるとか,量刑が大きく変わるというのではないだろうけれども,裁判にどういう厚みなり新しい風が吹くのかというところの議論がないように思うと。それから,どうも審議会や検討会で専門家の方々は話していたけれども,「では国民の皆さんはどうですか」という形で広く開いて議論していたふうでもないので,そこのところがしっくりきていないのかなとのことでした。また,先生はドイツの制度を非常によく御存じで,ドイツの国民の意識の中では裁判は参加するもの,いわば国民が勝ち取っていったものという意識があるのだけれども,日本ではそういった意識はなかなか見えない状況であり,そうだとすると,我が国が民主国家としてやっていくときに,どのように国民が国との関わりを持っていくのかという一つの文化形成の問題だろうとの御意見でした。さらに,これも渡辺委員がおっしゃったように,性急にというのではなくて,長丁場の事柄としていくべきだし,はったりでとにかく裁判所に国民の方を連れてくればいいというものではないだろう。具体的にどういうことをどうやるかというのはまたこれから委員の方と議論する中で考えていきたいけれども,今のところはそんな印象がとても強いといったお話をされていました。

【今崎刑事局第一課長】

先ほど何人かの委員からの御指摘があった点で一番大きいのは,この制度導入の趣旨が一体何なんだろうということかなと思います。もともと,裁判員制度は,司法制度改革審議会という政府に置かれた審議会で議論されて,こういうものを設置すべきだという提言がされ,その後,それを受けて政府に置かれた司法制度改革推進本部で,さらに詳しい中身を詰めて,法案として提出したという経緯があるわけですが,その中の議論では,何といっても,国民が司法に参加することによって,司法に対する理解の増進,あるいは信頼の向上を図るという考え方が基本であったように思います。裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の第1条の中に趣旨が書いてありますが,そこでも,「この法律は,国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ」,こういう法律を制定するのだと書かれているわけです。つまり,国民の理解の増進,あるいは信頼の向上ということが鍵になっているように思います。
裁判というものが民主主義の考えとどこまでなじむのかというのは,昔から議論があるようです。ただ,少なくとも論理的な必然性があるわけではなくて,むしろそういう民主的な基盤を持たない裁判所であっても国民の権利義務がよく守られるということには特段の疑問は抱かれていないように思われます。他方で,御承知のように多くの国が,アメリカをはじめとする陪審を採用する国,あるいはドイツやフランスのように参審を採用する国と,バリエーションはありますが,大なり小なり国民の司法参加という制度を持っているわけです。では,我が国では今までそうしたものなしでやってきたにも関わらずなぜ入れるのか,ということになりますが,今までやってきた裁判が間違っていたから入れるというわけでは恐らくないのだろうと思います。そうではなくて,これから社会がどんどん複雑化していく,あるいは国民の価値観がどんどん多様化していくという中で,今後裁判が今までと同じような信頼を得続けていくためには,国民に入っていただくことが必要だと考えられたわけで,これが国民の理解の増進,信頼の向上ということの意味だったわけです。我々としても,ぜひ国民に裁判所の中に入っていただいて,我々の仕事を見ていただき,一緒に判断していただきたい,そうすることによって裁判というものをもっとこれまで以上に信頼していただけるのではないかと,そういう期待を持っているわけで,だからこそ裁判所はこの制度自体を当初から支持し,賛成してきたわけなんです。ところが,今議論をうかがっていますと,それは所詮は我々のロジック,法律家のロジックであって,決して国民の側から見たロジックではなかったのかもしれないという気がしてきます。そうだとすると,一体どのようにこれを見ていったらいいのか,どのように考えていったらいいのかということになるわけで,この点についてもお知恵を拝借できればと思います。

【吉田委員】

国民の理解の増進と信頼の向上に資するということがこの法律を作った趣旨であるということは分かりますが,すべての改革は,現状に何か問題があって,あるいは弊害があって,それを是正するために改革するということだろうと思うのです。例えば行政改革にしても,行政が肥大化してきて,このままいったら大変なことになるので,官から民へ,それから中央から地方へ行政を転換させていこうということとか,あるいは地方分権の問題にしても,国と地方の行政の関係を上下・主従の関係から対等・協力の関係に変えて地方の自主性を高めていくということ,ある程度具体的な目的がはっきりしている。この裁判員制度についても,恐らく現状に問題があるからやるのでしょうけれども,その現状のどこに問題があって,これを導入するとどこがどう具体的に変わっていくかというのがなかなか目に見えてこないと,これは私だけかもしれませんが,なかなかそこが分かりにくいというので,そこをはっきりさせれば,少し理解が深まってくるのではないかなという気がします。

【中村総務局第一課長】

裁判所の今までの広報というのは,例えば,ある制度ができたとき,「こういう新しい制度ができたので,利用される方は利用してください。」という形の広報が多かったのです。それに対し,今回の裁判員制度の場合は,裁判を利用する人ではなくて,裁判と無関係な一般の人に来ていただいて,裁判に参加してくださいというものですから,これを今後国民の皆さんに理解していただいて,来ていただくことを考えないといけない。例えば,商品をショーウィンドウに並べて,「こんないい製品ができましたから」と広告するのは比較的簡単なのかもしれませんけれども,そうではなくて,それを裁判所まで来て,手にとって見てくださいと,そういうところまで国民の皆さんに広く言っていかないといけない。選挙などはそれに近いのかもしれませんけれども,わざわざ時間をかけて行って何かしてもらわないといけない。そういうところのやり方というか,理解の得方というのは普通の広報とはちょっと違うのかなと思います。そういう広報というのは,裁判所としては,恐らく今までほとんどやったことがございませんので,先ほど篠田先生などが言われていましたように,理解というか,意識のところをどうやってそのように持っていくのかというところをぜひお聞かせ願えればと,特に今回の裁判員制度の広報で御意見をお伺いしたいなと思っているところです。

【藤原委員】

広告も,商品やサービスがよければ大変容易に行うことができるので,まずはこの制度自体がいいものであるということを前提にお話をさせていただきます。先ほど吉田委員から,様々な今進みつつある改革は,よりよい制度にするためにはどうしたらいいかという流れに即しているというお話がございました。確かに井田委員の御意見のとおりであり,吉田委員の御発言のとおりだなと思いますが,その下敷きになるのは,我々はどういう社会を目指すのかということだと思います。
先ほどの平木先生の御発言,ほかの個人に言い渡される判決に対して自ら参加することにどのような意義があるか,に私も大変感銘を受けました。我々の住む社会というのは,我々が何らかの方向を模索しながら,自分たちが自らアクションを起こしてその方向に向かおうという意識を持たない限り,惰性的に現在の状況を維持するか,あるいはどんどん形骸化し基本となる精神すら維持できなくなっていく状況に甘んじていくしかない。ほかの人に委ねれば委ねるほど形骸化していくスピードも速いのではないかという恐れを抱くわけです。そのときにその下敷きになるのは,平木先生のお話も大変有意義な下敷きになる一つの信念だと思いますが,シビルなソサエティーを目指すということだと思います。自分たちがこの国の裁判の手続や判断に納得できる自由と,納得するための手法というものを自分たちの手中に持って,そして社会を築くといった精神がうたわれるべきではないかなと思います。司法がより理解され,裁判に対する信頼性を上げるためのその根底にあるべき,我々が目指すべき社会像と言えるでしょうそれを支える信念,司法がさらに信頼を得るということが我々の社会を下支えするのに大変重要であるということは議論の余地はありません。しかし,伝えるべきは,その先にある何か理想,進むべき目標です。その目指す社会の姿を下敷きにしないと,この制度にみんなに参加してほしいと言っても説得力に欠けるでしょう。井田先生の御意見として「印象に訴えるものは,かえって国民の誤解を招くことになりかねないから,直球を投げるように」と書いてございますけれども,私もまさにそのとおりだと思います。書いてしまうと,みんな「そんなことないよね」と言ってとても懐疑的になってしまうことがしばしばあるわけですけれども,しかし書かないと何も始まらないという気がしておりまして,目標になるもの,目指すものが何なのかというのを下敷きにするというのが重要だと思います。

【小池審議官】

どうもありがとうございます。
これからどのようにしていくかという,私どもの頭の中をちょっと御覧いただくという意味で資料7以下を説明させていただきます。当面どのように動いていったらいいのか,長期的にどう考えていったらいいのか,また御意見をお聞かせいただければ思います。

【戸倉人事局参事官】

資料7は,我々のプロジェクトチームが発足当初イメージとして考えた非常にラフなものです。
はっきりやらなくてはいけないことは,左のピンクの枠の中に書いてあります。法律ができ,その細かいことは,実は裁判員制度の手続の方も含めて,最高裁判所規則という最高裁が作る規則に委ねられています。そこがある程度固まらないと,裁判員制度って一体何ですかと言われたときに,きちんと説明できるようにはならないのです。商品というものがあるとすれば,骨格はできているけれども内部まで十分に完成していないという状況です。いわばこの製品がだんだんブラッシュアップされていくというか,実体を明らかにしていく中で,そのときどきで広報活動をしていくという,ある意味では難しい形のものでもあります。
活動のイメージも,例えば三つに分けてみました。最初の水色の枠は具体的な部分を定める規則がないので,ここでできることは,制度はこんなものができましたとか,あるいはある程度基本的なところをお伝えするといった具合です。
実際に我々がやることもこのようなことが中心になりますので,一番右にあります広報ツール,手段も,制度周知に役立つようなポスター,リーフレット,広報紙といったものになってくるかというようなイメージです。
規則ができて,制度のイメージが具体化するに従い,広報の目的も制度の名前を知っていただくというところから,もう少し内容あるいは意義,もう少し進んで参加しようかなという気持ちを持っていただくといったことが目標になってこようかと思います。具体的にはポスターあるいはリーフレットだけではなくて,シンポジウムとか,模擬裁判とか,より制度が具体化するに従いまして,より具体的なイメージを国民の皆さんにお示しできるということになるのではないかと考えています。
最後の1年か2年というある意味では仕上げの時期は,ほぼ制度の中身ができ上がっています。しかもいよいよ実施の前年となると,これは総力を挙げた広報活動になるのではなかろうかということで,それまでのいろいろやってきたことの集大成として,いわばありとあらゆる手段を通じて広報を行うというものです。
こういった広報活動により,今から5年以内に施行される裁判員制度について,円滑な実施を目指して頑張っていくということになろうかという,非常にラフなイメージでございます。
次に資料8-1です。今年,平成16年度にできることは,いわば第1段階の基礎的な制度の周知ということになります。既に「裁判員制度・誕生」というポスターを裁判所としましては異例なほど多く作りまして,公共機関・学校・図書館といったところに掲示をお願いしています。また,これまでリーフレットやホームページを作成しました。今後は広報紙とか,制度のお知らせといった形のビデオになろうかと思いますが,そういったものを今年度は検討しております。
次に,資料8-2ですが,来年度はどういったものを柱として考えているかというアイデアです。イメージキャラクター,タウンミーティング等,多岐にわたっています。これが財政当局の理解を得て予算をつけてもらえるかどうかは今後の我々の努力次第で,そういう意味でもここでの皆様の御意見も大いに追い風になれば非常にありがたいと思っています。

【小池審議官】

今日のお話を伺ったところでは,いろいろなことをやっていかないといけないけれども,何を今の段階で盛り込んでメッセージを送っていくかということは非常に難しいように感じています。先ほど今崎課長が申し上げましたが,法律家の中では,例えば裁判員制度を導入すると現実に司法をこのように変えていけるという意識もありますが,それを国民の方にダイレクトにお話ししても,「ふーん」という感じにしかならないところがあると思います。
この間,裁判所の中で,裁判員裁判が実際にどのようなものになるのか,模擬裁判をやってみました。裁判所の中でも法律以外の事務的な仕事をしている人もいますので,そういう人に裁判員をやってもらったのですが,なかなか思いどおりには進まないものです。
ただ,後で行った反省会で出てきた意見として,殺意を持って人を殺してしまったということですが,専門家だけでやっているときよりは,裁判官がより多角的に,より謙虚に判断しようとすることができたというものがございます。例えば,専門家だけの議論だと,このくらいの長さの刃物を持って胸を刺したら,最初から殺そうと思っているに違いないじゃないかと,いわば思考をスキップしてしまうことがないわけではない。ところが,素人の方が入ると,でもそうは言っても,もみ合っているうちに胸に刺さってしまったんじゃないかとか,非常に直観的ではありますが,確かにそう言われてみれば,いわば少し心を柔らかくしてみれば,そのようにも見えるかもしれないというところがある。議論に大変時間はかかりますが,最後の評議を経た判決がもしかしたら専門家だけの裁判よりも多角的で厚みがあって,第三者が,あるいは被告人も含めて,その判決を読んだら,これが本当に近いとか,あるいはこれが本当の気持ちに近いというところまで接近できた面もあるのではないか。それはまさに国民の方との接点で,どんな貢献ができるかということだと思いますが,その辺はもう少し我々も勉強しながら,どういうメッセージを送っていくかということは検討したいと思います。
テクニカルな部分も含めて御説明させていただきましたが,そのようなテクニカルな面,それから,実質的に何を盛り込むかというところについて御意見をお聞かせいただければと思います。

【篠田委員】

広報をしていくに当たって,幾つものレベルがあるのではないかと思います。5年しかない中で,いろいろなレベルでの広報をして,まず裁判員制度という言葉自体を広く国民の方々に認知してもらう。内容はとにかく,正確なことはいいから,こういう制度がもう導入されたのだということを認知してもらい,「あなたのところに来るかもしれませんよ」ということを認知してもらって,自分のこととしてとらえてもらうというのが第一だろうと思うのです。ビジョンというのは,それを分かった上での話になってくるので,とにかく広くいろいろなところにこの言葉を浸透させていくという広報が一つあると思います。
先ほどから吉田委員からも御指摘があって,結局現状に何か問題があるからこういったことが実は導入されたんだろうというのは私も全く同感で,そこが示されない限り納得できないのです。どんなに理想的なことを言われても,未来に対してビジョンを示されても,実はどんな問題があったのか。
ただし,これは裁判所の広報からは言えないことだと思います。今の裁判官の方々に対する,あるいは批判になるかもしれないですし,そういう裁判官を拘束していくような規則等に対しても,そこに問題があるといったことを認めるというか,そういうことにも言及しなければいけないので,そのあたりが社会の多様化に対応できないのではないかと思います。あるいは,社会の複雑化と多様化に対してなかなか裁判官だけでは適応していくのは難しいのではないかと,逆に言うとこういうことが言えてしまうと思います。ではそれはなぜか,何の問題があるのかということになってくると,これはちょっと裁判所の側の広報としては大変出しにくいことではないかと思います。このあたりはマスコミの方々の手を借りてやっていくしかないだろうと思うのです。何が問題になっていて,そしてここで裁判員として一般の国民の持っている情報を活用しつつ,一緒に協議するという形でその判断を必要としているんだと,このあたりを新聞ないしその他のマスコミの方々にも書いてもらって,積極的にマスコミとも連携しながら広報を行っていくということも必要だと思います。
今のはあくまで例ですが,必ずしも一つのことではなくて,いろいろなレベルがある,山のすそ野から幾つにも分かれた山のてっぺんまでを知らせるということなので,その辺に5年間をかけてきめ細かく行っていくべきではないかと思います。予算配分などにしても,初年度ということで,この言葉自体を広く認知させる,内容の正確な把握というのはともかくとして,いろいろなところにこの言葉を使っていって,「それって何?」みたいなところを引き出せば,まずは最初の1年ないしは6カ月はオーケーなのではないかという気がします。

【渡辺委員】

この制度が導入されるまでには,今の刑事司法の評価をめぐっていろいろな対立がありました。それはともかく,国民の司法参加に道を開いた司法制度改革審議会の意見書には,目指すべき高邁な理想,社会像が提示されていて,それをもう一回振り返って見るという作業はそれはそれで意味があることだと思います。篠田さんが今おっしゃったように,まず浸透を図って,次に「で,何で?」といった質問が出たときに,改めて「こんな経緯でできたんですよ」という説明をする手順になるのではないかと思います。
最近,裁判員制度ができたというポスターやチラシをいろいろな場面で目にします。内閣の司法制度改革推進本部が作ってみたり,弁護士会が作ってみたり,法務省の方の名刺には裁判員制度のイラストが入っていたりと,皆さんそれぞれ努力されているのだけれども,私からすれば,みんなばらばらにやっているという感覚がものすごく強いのです。この懇談会の資料にも「法曹三者の協力体制の確立」という言葉が書かれ,さっき戸倉さんからも説明がありましたが,とにかく社会に広く定着させるには,まず法曹三者が足並みをそろえて取り組んでいく,それが非常に大切ではないかと思っています。ばらばらにリーフレットを作ると,説明の力点も,言葉遣いもちょっとずつ違っていて,それを受け取る国民側からすれば「何をやっているのかな」という気がするのではないでしょうか。一つの原版をつくるのにもお金がかかるわけですから,いかに資源を有効に使うのか,スタッフを有効に動かすのかといったことをぜひ検討していただきたいと思っています。ここに掲示されているポスターも最高裁判所がつくったポスターですから,下に「最高裁判所」と書いてありますけれども,これから出すポスターなりリーフレットなりはすべて「最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会」というものにするぐらいの連携が必要ではないかと思います。この懇談会も弁護士会や法務省の方も参加できるものにして,いろいろ議論してもいいのではないでしょうか。そういった体制を作って,では1年目に何を集中的にやるのか,2年目にどんなところに人や金をつぎ込むのかといったプランを立てていく必要があるのではないかなと考えております。

【藤原委員】

私はもともと人類学の出身なので,人間の社会を考えるときにものすごく長いスパンでものを考えてしまいます。現在の制度に関してどのような不都合があるとか,不都合らしきものが生じてきたかといった御発言が幾つかありましたが,私がこの裁判員制度を聞いたときには,このような印象を受けました。すべての制度というのは,歴史的には多分少しずつ進化してきて,そして改善されているに違いないと,特にそこに思想だとか主義主張だとかという下敷きがある限りは,大方の方向というのは間違っていないのではないかと,直観的にそう思っています。しかしながら,制度が制度として確立されていく過程において,何らかの犠牲,積み残されたもの,あるいは切り捨てられたもの,はぎ取られてしまったものというのも多分あったのではないかという気がします。そのあたりも含めて,すなわち裁判所というものが存在する以前はどうだったのかとか,シビルのソサエティーというときには,未来形だけではなくて過去形も含めて長いスパンで眺めてみるには今は非常にいいチャンスではないかという気がしています。現在の制度のどこに不都合があったのかということを問う前に,この制度ができる前はどうだったのかということも含めた資料とかストーリーを見せていただけると,説得力があるのではないかと思います。専門化したがためにどういう弊害があったか,言葉が適切ではありませんが,どういうものがそぎ落とされていったのかといったストーリーを見せてもらうと,一番分かりやすいという気がしますので,そのあたりの情報を長いスパンでぜひ教えていただければと思います。

【小池審議官】

まさに藤原委員のおっしゃるように歴史的な形でどうなのか,その歴史の中で過去と未来を結ぶものとしてどういう意義があるかということは,またいろいろな角度でお話ししたいと思います。それをメッセージとしてどう盛り込んでいくのか,だれに対してインフォメーションをお伝えしていくのか。恐らく,ダイレクトに国民の方に広報をやっていくことも制度認知を高めるという意味では重要かもしれませんが,その中間層にある方にお伝えして,その方がいわば音叉の共鳴のように御自分の言葉でいろいろな方々にそれをそしゃくしながら伝えていくという間接的な広報効果というものが大きいのかもしれません。その点は,私どももまさにストラッグルしながらこの問題に取り組んでいますので,今後もよく勉強していきたいと思います。
裁判員制度の広報というものは本当に本腰を入れている作業です。裁判員制度の導入は,裁判所も変わる,裁判官も変わる,司法も変わるというケースです。恐らく今回の司法制度改革の中でいわゆる法曹養成,ロースクールの問題とこの裁判員制度というのが,今後の司法にとって極めて大きな影響力を与えるものであり,そうであるがゆえに,自分たちだけの知恵で考えていくのは非常に危険で,むしろもう少し広く御意見を聞きたい。振り返ってみると,それがこの裁判員制度が誕生するまでのプロセスに欠けていた要素ではないかという思いがあるわけです。
次回は9月7日の1時30分からです。場所についてはまた別途御案内申し上げます。長丁場でございますし,スタートダッシュのところが重要なものですので,またこの夏の間に私どももブラッシュアップして考えてまいりたいと思います。
本日は本当にお忙しい中御参集いただき,非常に活発な御議論をいただきまして,ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。