裁判員制度広報に関する懇談会(第3回)

トップページ > 統計データ・資料集 > 裁判員制度広報に関する懇談会(第3回)

日時
平成16年11月19日(金)午後1時30分から3時30分
場所
最高裁判所公平審理室
出席者
(委 員)
井田 良,篠田節子,平木典子,吉田弘正,渡辺雅昭(五十音順・敬称略)
(裁判所)
戸倉審議官,河本総務局参事官,中村総務局第一課長,楡井刑事局参事官,大須賀広報課付

席上配付資料

意見をお聞きしたい点(第3回)

  • 広報活動に当たり,情報の受け手によって,情報提供の方法,内容,時期等について留意すべき点はないか。
  • 広報に当たって,国民の認識,要望,意見をどのように把握していくべきか。また,広報効果の測定は,どのような方法,時期,頻度で行うことが適当か。

藤原まり子委員のご意見等

  • 11月15日に委員からお聞きしたご意見の要旨
    • 広報活動は畑を耕すようなもの。積み上げていくプロセスを慎重に設計し,一つ段階を経るごとに認知を高め,理解を深めることを目指すのが重要。
    • まず,先回大谷広報課長から説明があった経緯(第2回会議録2ページ)をしっかり認識してもらう必要がある。わが国の特異性や,欧州,米国などの先進諸国の制度の背景との比較も重要である。見識があり,関心も高い層には,そこから他の層へ波及効果を狙って,様々な情報を提供するのが良いのでは。
  • その内容は
    • 裁判員制度のみならず,歴史的に裁判制度の導入前の段階から日本と欧米諸国とを比較しつつ広報すべき。具体的には,新聞のコラムで連載をしたり,ラジオのコーナーを設けることを想定。(例えば,放送大学の教授たちの中に適当な方がおられるかも。)
      一度公表した情報を後々引用したり,シンポジウムなどを開催するときに,会場でそれを配布するなど,情報を蓄積して,再び広報したり,議論をすると効果的。
    • 上記コラム等により,見識ある層に対してある程度情報を提供し,底上げをする。その上で,アンケート調査等の情報収集を行い,判明した問題点に対応する全体計画を示すと共に,特に問題とされた点について,一定期間集中的にその点に絞って検討するといった形を取り,対応後また効果測定・調査を行うという形で広報を進めるのが相当。その場合,常に議論の全容が分かるような組み立てが必要。これまでどのような(複数)点を議論し,次にはどのような議論をするのかが分かるように配慮して,情報や議論が錯綜するのを防ぐ。
    • 裁判員制度は,国民が社会に応分参加する制度である。いわば社会の安定をもたらすものであり,安全弁となる国民の「権利」であり,諸外国はこの権利を血を流して勝ち取ってきた。それが今導入されるという歓迎すべき状況であることを諸外国の歴史と日本の歴史を比較するなどしてアピールする必要があろう。
    • 裁判員となったときに特に留意すべき点(行動,言動)についても国民は戸惑っている。制度施行の時期が近づいた段階で,具体的行動のガイドラインを示すと良いのではないか。

配付資料

資料1
パンフレット「平成21年5月までに 裁判員制度がはじまります!」
資料2
司法の窓 裁判員制度特集号 (2004年9月発行)

第3回会議録

【戸倉審議官】

それでは,ただいまから第3回の裁判員制度広報に関する懇談会を始めます。
本日は,藤原委員が御欠席です。事前に御意見を伺ってまとめたものを席上にお配りしていますので,御参照ください。
まず最近の広報活動の状況について簡単に御説明します。

【河本総務局参事官】

前回の懇談会以降の実施状況を中心に御説明します。
10月1日からの1週間を「法の日」週間と決め,法の役割とその重要性を理解していただくことを目的として,全国各地で法曹三者が協力してさまざまな行事を実施しています。今年は,裁判員制度の成立を受けまして,東京で行われました中央行事を始め,各地で裁判員制度の周知を目的とした行事が行われました。その代表的なものを幾つか紹介します。
最高裁判所と法務省と日弁連は,例年,「法の日」週間に中央行事として講演と映画の上映会を催しています。今年は講演に代えて,裁判員制度をテーマとした座談会を行いました。エッセイストの安藤和津さんの司会で,裁判官,検察官,弁護士がそれぞれの立場から裁判員制度について分かりやすく説明を行い,おおむね好評でした。裁判所と法務省,日弁連からスタッフを出しましたが,みな揃いのTシャツを着ていることが話題になり,新聞でも取り上げられました。
このイベントの際に,「裁判員制度について一番知りたいこと」についてアンケートをとりました。その結果,「制度導入の理由は何なのか」,「審理には何回ぐらい出席する必要があるのか」,「どのくらいの時間拘束されるのか」,「裁判員となるための環境はどの程度整備しているのか」,そして「今の刑事裁判はどうなっているのか」といった疑問が出されました。このような参加された方々の興味の対象や関心事も広報を行う上での一つのテーマになると思っています。
また,各地の裁判所におきましても,法曹三者主催の模擬裁判,出張講義,新聞の誌面をお借りしての法曹三者の座談会,路上でのパンフレット配布など,多彩な取り組みが行われました。
この「法の日」週間のイベントに合わせて,法曹三者が協力してパンフレットを作成しました。お手元にある「裁判員制度がはじまります!」というパンフレットです。裁判員制度について,イラストを用いて分かりやすく解説しています。
それから,裁判所では広報誌として「司法の窓」という雑誌を半年に1回発行して,全国の学校や図書館などに配布しています。今年は,この「司法の窓」の臨時増刊号として,裁判員制度特集号を編集しました。現在のところ10万部を発行しています。最高裁長官のメッセージに始まり,俳優辰巳琢郎氏と刑事局長との対談,裁判員制度の解説,それから,おそらく将来裁判員制度の担い手となるであろう高校生と現職裁判官の対談などが盛り込まれています。
以上です。

【戸倉審議官】

本格的な広報活動は,この懇談会での御意見も踏まえながら,来年度予算でやっていくところですが,従来の広報活動の中でも,裁判員についても最大限取り上げています。
いずれにしても,この裁判員制度施行までの5年間は非常に長い期間であり,平板な広報をしたのでは十分な効果は得られないと思われます。また,最終的に具体的な制度の中身が確定するまでにはまだ何段階かあり,現在はっきりしているのは,法律で規定されていることだけです。例えば,前回御指摘がありました,いつ呼び出されて,具体的にどんな手順で裁判員になるかならないか決まるのかといった選任の手続になりますと,その基本的イメージが固まるのは,何年か先になると思われます。その意味では,国民の方々が一番知りたいところは,今ははっきりした形で示そうにも示すことができないという状態であり,5年間の前半はこのようなことを前提に広報活動をやっていかなくてはいけないという問題があります。
広報の対象については,一番直接的には,裁判員の候補者である国民の方々一人一人ということになりますが,その他に,地方自治体,経済団体,労働団体などもいろいろな意味でこの裁判員制度に関わりがあります。また,マスメディア,学識経験のある方といった,二次的な情報伝達や啓発が期待される対象もあります。もう少し長いスパンで見ると,今は未成年でも先々裁判員の資格を持つ人たちを対象とした広報あるいはいわゆる法教育の問題もあります。
この5年間の間に,それぞれの対象を想定して,具体的にどう情報を伝えていくのがよいか,どんな内容を伝えればよいのか,非常に難しい問題だと考えています。本日はこの点に関してお聞かせ願えればと思います。

【井田委員】

一般論として,やはりまずは「裁判員制度というものがあるんだよね,今度始まるんだよね。」というイメージをなるべく広く,まず中身の広報の前に,言葉だけでも,あるいは概要だけでも,できるだけ多くの人に知っていただく,そういうところから始める。ですから最初はターゲットを絞らないで,なるべく多くの方に知っていただくよう,今もやっているようなことを続けていくのがいいのではないかと思います。
また,慶應の附属高等学校の校長を兼務するようになって,非常に感じることは,中学・高校への情報提供が非常に有効であるということです。例えば,学校で授業をしたり,ましてや試験の範囲に入るとか,受験で出される可能性があるということになれば,親も当然関心を持ちますし,どんな授業を聞いてきたのだということで,パンフレットを持っていればそれが目に入ることもあるかもしれません。ですから,中学・高校に対して,授業の中で取り上げてもらうような形での宣伝活動のようなことを行う。これは将来の裁判員予備軍ということもありますし,またそれがひいてはジワジワとその父兄に効果があるという可能性もあるので,非常によいのではないかと思います。
それから,もう一つ,最近非常に犯罪が多くなっていると言われ,防犯について人々は非常に関心を持っていると思います。地域のレベルで防犯活動のためにいろいろな工夫をしている話をよく聞きます。今度は犯罪が行われた後の手続という形で,防犯活動に関連して興味を持ってもらうという方法もあると思います。

【吉田委員】

この制度は,最終的には国民の一人一人に理解をしてもらって,参加をしてもらわなければ実現しないと思われます。国民に向けての広報は,総論的な事項としては,なぜこの制度が今導入されたのかという経緯や背景,この制度の導入の意味・目的は何かということ,それから,この制度を導入したことによって,裁判がどう変わって,どういうメリットがあるかといったことは,まず必要だろうと思います。
それと同時に,今度は具体的事項として,この制度の中身,仕組みについてきちんと広報する必要がある。どういう手続で自分は裁判員に選ばれるのか。実際に裁判員になった場合に,裁判に参加してどういう役割を果たしていくかということ。そのときに,やはり一般の国民の人たちにとっては,刑事裁判は非常に馴染みが薄いので,現在の裁判がどういう仕組みで行われているのか,そこに自分たちが参加することによってどういう役割を果たすのかといったこと,それから,裁判にはだいたい何日くらい行かなければならないのかといったことを,具体的な中身として広報する必要があるわけです。
それから,刑事裁判に関わることについて,非常に不安感を持っていると思いますので,その不安感を解消する広報が必要です。つまり,裁判員は裁判官と同じレベルの能力,知識が必要不可欠なのではなくて,国民の日常的な感覚を裁判に反映するということで裁判に参加していくのだから,そう難しい話ではないのだということをよく広報することが必要だと思います。
どんな時期に,どれをやっていくかということになりますと,やはり総論も各論も関連するので,少なくとも今の段階では全体のことを広報していくことが必要なのではないかという気がします。とにかくこの制度が導入されたということをどんどん分かってもらうのが,今一番大事だと思います。
それから,どの媒体を通じてどういう広報をするかについては,地方自治体あるいは各種団体を通じて行うにしても,最終的には国民に分かりやすい広報をしていくために色々な媒体を使うと思います。テレビ,ラジオ,新聞,それから雑誌とかポスター,パンフレット,リーフレット,あらゆるものを使うことが必要であると思います。あまり堅い話ばかりではなく,分かりやすく,例えば漫画などを取り入れたりしてやっていくということも重要ではないかという気がします。

【篠田委員】

何かロゴとかマークみたいなものは作っていますか。

【戸倉審議官】

実は来年度予算でロゴやキャラクターなど,象徴になるようなものを作ろうかと企画しています。現時点ではまだできておりません。

【篠田委員】

最初の1年ないしは2年くらいの間は,どういう制度でどんなものなのかということを知らしめる前に,マークないしはロゴを使って,「いったいこの言葉何なの,いったいこれ何。」という風に,まず最初にその言葉だけを浸透させてしまうとよいと思います。いきなり聞いたこともない名前がポンと出てくる。例えば,雑誌の名前で「ソトコト」というものがありますが,「何それ」と思うわけです。昔は「パルコ」という名前がいきなり出て来て,「それって何なの。」と思いました。ただその短い名称だけ繰り返し繰り返し流されたとき,それに対して分からないと無視するのではなくて,いったいそれは何だというクエスチョンマークで必ず引っかかってくると思います。クエスチョンマークのないところに「これはこういうものですよ。」と言ってもなかなか浸透しないので,まずは何だろうという気持ちを起こさせる。それに対して答える形で,ズバッと簡単な答えを提供していって,何となく,知らないとみっともないという雰囲気を作り上げていく。強烈にロゴとキーワードを使って浸透させていって,クエスチョンマークを引き出すという広報が最初の1年くらいで行われるとよいのではないかという気がします。

【平木委員】

すぐに大きくなっていくので,子どもたちにはもう今からでも,コンスタントにずっと宣伝し続けたほうがよいと思っています。実は子どもたちは犯罪にはとても関心があるものです。例えば,今高校生は犯罪心理学にとても関心を持っています。心理学の中で一番人気は,実は犯罪心理学です。犯罪心理学を勉強すると何ができるかとか,どんな仕事をできるかということはよく聞かれます。そういうところから関心が広がっていく可能性があるので,子どもたちに向けてはコンスタントに教科書などにうまく書いていただき,そのことをお母さんたちやお父さんたちときちんと話し合わせるとよいと思っています。
もう一つは,先ほど吉田先生も触れられましたが,漫画やアニメなどは,馬鹿にしないでぜひ使ってもらいたいと思います。なぜかというと,いつも電車の中で見かけますが,大の大人でも今は漫画を読んでいます。あの中に,裁判はこんなふうにして,裁判員ってこんな風に活躍しているのだというものがあるとよいのだろうなと思って見ています。描いてくださる漫画家何人かに,裁判員が人のためにどんなことをできるのかといったことを,アニメでも漫画でもよいので作っていただくとよいのではないでしょうか。このようなことはどこかの新聞社の社説にも書いてあったような気がします。
私が不登校児など,心理的な問題を持っている子供たちのカウンセリングをしていて感じるのは,最近は,ほとんど何の葛藤もなく,学校に行かなくても自分はどうにかなると考えている子供が急激に増えているということです。そういった人たちも今度は裁判に関わるわけですから,このかなり多い層には,アニメや漫画のような媒体を使わないと,あなたたちだって何かやれるとか,こんなおもしろいことがあるということは,浸透しないだろうと思います。ニュース番組もほとんど見ていませんし,そのような人たちにも伝わるものが一方では必要だと思います。
また,マスメディアは,イベントごとに動いていただけると思いますし,より5年先の実施に近いところで大活躍していただけたらよいと思います。

【渡辺委員】

メディアに属するものとしては,不祥事や悪いこと,困ったことがあると書きやすいのですが・・・。冗談はさておき,いろいろな形でメディアの関心を引く問題提起や仕掛けは必要だと思います。
皆さんがおっしゃるとおり,とにかく裁判員制度という言葉に関心を持ってもらう,知ってもらうことが大切でしょう。もう一つ,最初の時期には,職域や地域の核になる団体や個人に働き掛けることに力を入れるべきではないかと思います。例えば,企業にとって,従業員が裁判員に選ばれた場合の対応をどうするのか,参加できるようにするための制度をどのように作っていくのか,準備する期間が必要です。経済団体などと情報を交換することによって,どのような広報や情報提供をすれば効果的か,ヒントも得られるでしょうから,早めにとりかかるべき対象だろうと思います。
また,中高に限らず小学校も含めて,学校・教育現場とどう連携していくかも大きなテーマだと思います。法教育全般との関連を見据えながら,教材の開発などに裁判所を含む法曹三者がいかに主体的に取り組み,どう子どもたちに届けるかを検討するとよいと思います。井田先生がおっしゃったように,親御さんたちも関心を持つものになると思うので,早めに準備をする必要があると思います。
一連の司法制度改革で発足する司法支援センターとの連携も探るべきでしょう。裁判員制度のスタートよりも先に,民事・刑事双方についていろいろな法律サービスを供給する拠点が全国に設けられます。その広報活動とも連動して,この国の司法はこのように変わっていきますというイメージを,併せて提供することが必要ではないかと思います。基本的に,裁判員制度は,どちらかというと,「えっ,そんなことやらなきゃいけないの。」という思いを抱かせる,「やっかいなもの」といえるでしょう。しかし,両者は密接な関係にあり,ともに司法が変わっていく「核」となる構想なのだという全体像が届く形の広報をし,理解を深めていく必要があるのではないかと思います。

【戸倉審議官】

この時期は5年間のうちの前半です。先ほど申し上げましたように,制度の中身が固まらないと同時に知名度も低いという時期ではあります。
そのような中で,今年の法の日に各地で裁判員を取り上げたイベントが行われました。先ほどの「ニュースになる」という意味では,かつては法曹三者がいがみ合っているというイメージがあったせいか,一致協力して何かやるだけでニュースになったりしています。
我々の抱いている不安は,いろいろあちこちでイベントなどの広報活動をやっていますが,時が経てば忘れられてしまうのではないか,また,このままこのようなやり方でよいのかということです。繰り返し繰り返しでよいのか,短い情報を伝える形のイベント的なものをやるにしても,何か少し背景があってやるということも必要なのではないか。どんどん情報を伝えていくというやり方もあると思いますが,果たしてそれでよいのかという不安もあるのです。

【吉田委員】

私はやはり両方必要なのではないかと思います。一つには,皆さんおっしゃるように,裁判員制度というものができたということをいろいろな方法で知ってもらう。言葉を知ってもらう,こんなことが始まるということを知ってもらうということは最低限必要だろうと思いますが,併せて,なぜこうなったのか,それによって自分たちはどういう関わりを持っていくのかということも,アウトラインについては広報していったらよいのではないかと思います。
それから,媒体によって伝えるべきことが違うのではないかと思います。ポスターやビラなどといったものは「こういう制度が始まります。」ということをPRし,内容の周知は雑誌でのインタビューや対談,あるいは新聞やマスコミ等には,機会があるごとに特集記事,特集番組を取り上げてもらうとか,あるいは,新聞の一面広告などに関係者が登場して,座談会などをやるというやり方もあると思います。いろいろなことをやって制度を知ってもらい,中身についても理解してもらうということが必要なのではないでしょうか。

【戸倉審議官】

今吉田委員がおっしゃった中で,例えば新聞の一面広告で,対談形式でじっくり制度について書くという方法は,我々も馴染みがあって何となく安心感があります。
他方でテレビのスポット広告を考えると,一応のイメージはありますが,伝えることのできる情報は限られ,文字に比べれば耳から入る情報だけで本当に効果があるのかという意見もあります。こういったスポット広告は,文字の広告と比べて,効果はいかがでしょうか。

【井田委員】

もしシステマティックにやるとすると,5年間を三つに分けて,最初の3分の1に,例えば何のためのものなのか,基本思想,正当化理由などをまずは理解してもらえる広報をやる。次の3分の1は,例えばどういう制度かということを知らせることに重点を置き,最後の3分の1は,心構えなどを説くといった面に重点を置く。このように重点を変えてシステマティックにやればよいのではないかとも思えます。基本的には広報に及第点を与えられるような最低限の条件は,結局最後の時期になって,何人か反対する人たちがいるかもしれませんが,大方の人が「確かに裁判員で今日1日つぶれるけれども,仕方がないよ。行こうよ。」と言ってくれる。税金と似たような気持ちでしょうが,「もう嫌だよ。」と言われるのではなくて,「仕方がない,いいよ。」というくらいの気持ちになることが大事です。そうだとすると,スポット広告は決して馬鹿にするものではなく,どんどんやっていき,既成事実化されていくうちに,人は,「こういうのはある意味では仕方がないよね。」という風になってくると思います。
ですから,いわばサブリミナル効果のように,見ていたらパッと出てくるということにも意味があると思います。むしろ,5年後に始めるときに,大方の人がまあ仕方がないかとなれば,及第点どころか,大成功だと思います。そのためにはスポット広告もよいのではないでしょうか。

【平木委員】

政府の広報だったと思いますが,安室奈美恵の元夫が子どもを抱えて,「育児なしとは言わせない」という広告がありました。子どもを抱えて,「育児なしとは言わせない」という文字が出ているのはおもしろいと思った覚えがあります。これはいろいろな人が話題にしましたので,そういう意味では,「裁判員にならないとは言わせない」みたいなものもあってもよいかもしれません。

【井田委員】

いいですね。

【戸倉審議官】

先ほど篠田委員からも指摘がありましたが,我々はすぐ目をギラギラさせて,「裁判員,裁判員」とやりたがりますが,メリットなどの宣伝よりも,何のコマーシャルか,クエスチョンをまず持ってもらえるような形で広報をするというのも意味があるのかもしれません。

【河本総務局参事官】

ある意味,センスの問題みたいなのもあります。センスよくシンボリックにするためにはどうしたらよいか,なかなか難しいと思います。

【平木委員】

あの広告は賛否両論あって,むしろだからこそ話題にはなったのではないかと思います。

【篠田委員】

物議をかもすということは必要ではないでしょうか。

【戸倉審議官】

物議をかもすぐらいでないと,国民の関心を呼ばないという面もあるかもしれません。
最終的に国民に情報を行き渡らせるということを考えますと,昔のような講演会といったものではまず不可能なので,やはり新聞,テレビ,ラジオというメディアを使っていかなければなりません。このときの注意点や考え方についてアドバイスをいただけませんか。

【吉田委員】

長丁場ですから,なかなか難しい面もあるのかもしれません。選挙の広報などは,常時啓発と臨時啓発とがあります。常時啓発では,例えば選挙と金の問題で,「金のかからない選挙にしましょう。」という広報です。また,寄付の禁止について,お歳暮やお中元の時期に特集的にいろいろな媒体を使ってPRするというものです。臨時啓発は,総選挙なり通常選挙があるときに,「皆さん,投票をしましょう。」という広報です。これもいろいろな媒体を使っています。
裁判員制度はできたばかりですから,これを理解してもらうように周知するためには,どのような時期にどのような媒体を使うかはよく検討しなければならないと思います。法の日や憲法記念日など,節目節目をとらえて集中的にいろいろな媒体を使って広報していくことも大事ではないでしょうか。
テレビのスポット広告の話も出ましたが,それもそれで大変よいと思いますが,費用対効果の問題があります。相当集中的にスポット広告を流さないと効果がありません。一度だけ放送してもだめでしょうから,放送する期間と頻度で随分効果が違ってくると思います。テレビのスポット広告だけではなくて,新聞なり雑誌なりポスターと併せてやっていくことで,相乗的な効果が出るのではないかと思います。

【平木委員】

ホームページがうまくリンクするように設定することも大切です。何かのホームページを見ていたら最高裁のホームページにつながるとよいと思います。学会のホームページなどは,自分の学会のホームページを見ていると,他の学会の情報がきちんと入ってくるように設定されています。

【大須賀広報課付】

下級裁のホームページには裁判員コーナーへのリンクボタンを置いていますが,他の団体のホームページにはまだリンクの設定をお願いはしていません。
法務省とは,裁判員コーナーという形ではつながっていませんが,首相官邸のホームページの司法制度改革コーナーには行けるようになっています。

【戸倉審議官】

来年度以降は,裁判員制度のホームページを独立したものにできないかというアイディアをこの懇談会の第1回の資料でもお示しましたが,その検討も進めています。

【井田委員】

20~30分くらいのビデオはないのですか。

【平木委員】

何かの催しでビデオを上映したとあちこちに報道されていますが,どういうビデオなのですか。

【大須賀広報課付】

「法の日」行事で上映したのは,政府が制作した政府広報番組の一部です。法務省,検察庁と弁護士会の関係者が行った模擬裁判を収録したものを,東京や大阪のイベントで上映しました。

【戸倉審議官】

ビデオについては,法曹三者で30分~40分くらいのドラマ仕立ての広報ビデオを来年3月までには作って,いろいろなところで使おうと企画しています。
最高裁も,講演会などの機会に模擬的な評議を体験してもらおうと考えていますが,その評議体験の前提として,証人尋問など裁判の模様を描いた15分程度のビデオを作り,それを見た上で体験してもらうといった企画も検討しています。
さらに,今の刑事裁判も含めて,裁判制度そのものや裁判所を紹介するビデオなど,何種類かアイディアを持っていますが,今のところは,ビデオは作成されていません。

【河本総務局参事官】

刑事裁判は,訴追される立場の人に手続を分かりやすく解説するものはありますが,一般向けに刑事裁判の機能やどのような事件をどう処理するかを紹介するビデオはありません。「刑事裁判って何」という部分の解説が落ちているかもしれないので,そこをケアすることも大事だと思います。

【戸倉審議官】

刑事手続に一般の方が関わるという意味で裁判員制度と類似する検察審査会という制度があります。これは昔から伝統的に,真実が発見されていくプロセスをドラマにしたようなビデオを審査員にお見せしています。
次回の懇談会では,来年度の広報企画のラインナップについて御意見を伺いたいと考えています。

【渡辺委員】

配布されたパンフレットなどを見ると,「平成21年5月までに裁判員制度がはじまります」という表記になっています。省庁あるいは裁判所では元号を使わなければいけないのでしょうが,国民にとっては,今はむしろ西暦のほうが馴染みがあるのではないでしょうか。元号表記をやめるべきだとは言いませんが,少なくとも情報を受け止める側が今度のような認識なり価値観なりを持っているかということについて,もっと考慮すべきではないでしょうか。言葉一つにしても,「これで相手側が分かるかな,ピンと来るかな。」という配慮が,今後一層求められるようになるのではないかなと思います。

【平木委員】

大学の教授会ではいつもどちらにするか議論が沸騰します。結局「2004(平成16)年」と併記しています。

【戸倉審議官】

やはり括弧の中が平成ですね。
これに関連して,ロゴやキャラクターというものを作って,どういう使い方をするかという問題もあるかと思います。あらゆるところにそのキャラクターやロゴが登場するように広報するのがよいのでしょうか。

【渡辺委員】

せっかく作るのなら,そういう使い方をしなければ,逆に意味がないのではないでしょうか。

【戸倉審議官】

すぐに思いつくのは,裁判所から送る用箋とか封筒にペタッと載せることです。しかし,呼出状や訴状を送る時に本当にロゴがついていてよいのかと心配にもなります。このようにどこまでやってよいのかと逡巡したり躊躇したりするときもありますが,これもむしろ賛否両論あるようなやり方をしたほうがよいのでしょうか。

【平木委員】

どんなロゴかにもよるでしょうけれど。

【戸倉審議官】

起訴状はいくら何でも不相当でしょうが,事件とは別に,行政的に出すような書類もあります。このような場合にロゴを載せるという使い道があるかと思います。市町村の封筒などにはいろいろなことが書いてありますが,同じようなイメージです。事件当事者への書類や証人呼出状といったものに,用件とは別にロゴなどがあるのはいかがでしょうか。

【篠田委員】

ロゴ自体では何も説明することができないわけです。ですから,まずロゴの形を認知させてしまう。そして,そのマークが何なのかということを第2段階で浸透させていく。封筒などについては,何のマークか分からないけれども,何となくふっと意識の中に入ってしまうようにマークをつける。そのマークについて何を表わすかということは,例えば,バスや電車の中に貼るシール型の広告などでマークの下にこういうことだよという説明を書くという方法もあると思います。
ロゴだけの場合には,仮に訴状に貼り付けられて送られてきたものを裁判所のマークだと思い込んでいたら,実はこういう内容だったという方法もよいと思います。
また,市町村などに協力をお願いして,広報誌の後ろに載せてもらうこともできないのでしょうか。

【戸倉審議官】

まだ具体的なお願いはしたことはありません。地方自治体には,「裁判員制度・誕生」のポスターをお送りしました。その際,ただ送るのではなく,できるだけ裁判所の職員が自治体を訪問して渡すようポスターを通じて自治体とパイプを作るように配慮したところです。

【大須賀広報課付】

各地の裁判所から,裁判員制度に関する記事を各自治体の広報誌に載せてくださいということはお願いしました。その際,電子データを提供すれば載せていただきやすいだろうということで,裁判員制度の絵やイラスト,説明が入った電子データを提供しています。
地域に回る回覧板に載せてもらうことなどは,お願いすれば協力していただけるかもしれないという感触でした。

【平木委員】

こういうものが欲しいというフィードバックは来ないのですか。

【大須賀広報課付】

実は,最初に自治体に伺ったときには,チラシとポスターだけを持って行ったのですが,これを広報誌に載せてくださいと言われても大変だと言われて,電子データを提供することにしたという経緯があります。何かそのようなオーダーがあれば,できるだけ応えたいと思っていますが,その地域の情報を載せるだけでも精一杯という事情もあるようですので,継続的にお願いする以外はないと思っています。

【戸倉審議官】

自治体には,住民へのサービスとして,国の制度について情報提供や,広報活動をするセクションはあるのでしょうか。

【吉田委員】

県には広報課のようなものが必ずありますし,大きい市にもあると思います。町村レベルになると,総務課のような部署が担当かもしれません。
自治体がまず何を広報するかというと,地方自治体の所掌する事務に関して広報するというのが第1でしょう。まずは自分の自治体のこと,その次に国の制度ということになるのではないかと思います。裁判員制度についても,一般の国民に周知してもらうには,市町村の,あるいは県の広報誌を使うというのは有効ですが,やはり依頼する方が広報しやすいものを作って持っていくことが大事です。各自治体の広報課といろいろ相談したらよいと思います。

【井田委員】

確かに単にお上から来たものではなくて,各自治体のお手柄や宣伝になるようなことが入っていたほうが出しやすいと思います。

【吉田委員】

それがあれば,一番よいと思いますが,この制度については,うまくできますかどうか。

【戸倉審議官】

ある時期になって,「かなり負担が重いようだぞ。」などと,住民からいろいろな関心が寄せられてきたときには,情報を欲しいと思われることもあるかもしれません。基本的に,これは国の仕事だから国がやるのだという割り切り方になるのか,それとも住民の要望があれば,自治体としてもそういう広報にも少し主体的に取り組むという考え方になるのでしょうか。

【吉田委員】

それは,それぞれの自治体の判断にもよると思いますが,住民にとって必要なことを周知しようと考えると思います。裁判員制度は司法の民主化と言いますか,司法の国民参加という意味があるわけですから,それを広報することについてはやぶさかでないというか,地方自治体が主体的とはいかないまでも,協力要請があれば,広報することはできるのではないかと思います。ただ,国は何もしないのではなく,むしろ国の方が用意して,その上で,県や市町村にもこういうものをお願いするべきではないかと思います。

【井田委員】

例えば,横浜地裁かどこかでこんな催しをしますという地域の情報に結びつけないと難しいとは思いますが。

【戸倉審議官】

住民に一番身近な公の機関は市町村とか区役所で,行く機会も多いだろうと思います。ですから,そのような場所に広報をお願いするのは,非常に効果的だろうと思います。もう少し準備が進めば,自治体の職員の方々にこの制度についていろいろ直接説明して御理解をいただき,それをどこかで住民の方に伝えていただけるという形ができれば非常によいと考えています。負担を掛けることですので,一気に進めるのは難しいとは思っています。

【篠田委員】

とりあえず,広報誌の紙面をお借りすることが,一番具体的な案ではないかと思います。市町村の広報には,やはりかなりたくさん載せたい情報があると思いますので,ごく小さな誌面をお借りする。自治体,特に市町村の広報誌は,住民の生活の中で必要不可欠な,実用的な情報がたくさんあります。例えば,ごみの出し方や,その地域の救急医療,何月何日にはどこの医者が開いているという情報まであるので,全国紙の新聞などよりもよほど隅から隅まで読みます。その中には,自治体から発信する情報ではなくて,NGOやサークル,こんなイベントをやりますといった情報が小さく載る欄もあります。そういった欄を裁判所が借りて,アピールするような記事を入れるという方法もあります。数行ですから,自治体の広報課としては何ら負担がなく,「このくらいの面を貸してやるから,じゃあ載せてやろう。」となると思います。これを毎回毎回やっていると結構刷り込まれてしまうものなので,お願いしてみることが可能であれば,割と効果があるのではないかと思います。

【吉田委員】

この制度が導入されたときに,「こういう制度ができました。」とPRするのが一番よかったのでしょうが,これからの問題としては,やはり何かの節目をとらえて広報するということになると思います。
毎週毎週,またこれをやってくれと言っても,自治体の方としても自分のところでやりたいものがあるでしょうから,そればかりをやってくれというわけにはいかないかもしれませんから,時期を考えてやることは非常に大事かもしれません。

【戸倉審議官】

自治体のほかにも労働組合や経済団体がありますし,メディアにも,地方新聞社の論説委員など,オピニオンリーダーになっていただいけるような方等もおられると思います。そういった方に対する広報の在り方について何か御意見はございますでしょうか。
恐らくそういった方は,言えばそのとおり言っていただける方ではなく,御自分の考えで咀嚼して,意見をおっしゃると思います。また,先ほどありましたように,何回も繰り返して言っているだけでもいけないと思います。

【吉田委員】

裁判所とマスコミとの定期的な,フォーマル,インフォーマルな情報交換の機会などはあるのでしょうか。そのような場でマスコミに情報提供することも一つの方法かなと思います。

【戸倉審議官】

私の前任庁では,地域の論説委員の方々と,地家裁の所長や裁判官が定期的に懇談を行うことはありませんでした。

【楡井刑事局参事官】

私の前任地では,定期的に司法記者と裁判官が懇親の機会を持ち,その場で意見交換もしていました。もちろん,具体的な事件については我々も記者の方も話はしません。今であれば裁判員制度に関する話題も取り上げて,個人的な意見として記者の方たちと話をするのではないかと思います。

【河本総務局参事官】

場所によりけりのようです。定期的行われていなくても懇談の機会があるところはあるのではないかと思います。

【渡辺委員】

刑事訴訟規則の制定であるとか,先ほども話題になったキャラクターやポスターの作成であるとか,想定されるいろいろな準備作業の中で,やはりおもしろく,これは記事になるなと思わせる話,あるいは論争のテーマを裁判所側からどんどん投げ掛けていただければと思います。記者の関心や興味とうまくかみ合うような情報発信がされれば,取り上げられる機会も増えると思います。もちろん本来問われるのは記者の問題意識やセンスなのですが,裁判所としても,記者が情報を受け止められるだけの土台を普段の懇談や付き合いのなかで作っていく,そんな取り組みも必要ではないでしょうか。

【戸倉審議官】

福岡の新聞に,裁判員の模擬評議を司法記者に体験してもらったというものがありました。やはり「なかなか難しいものだ。」ということを,そう書いてくださいというより,体験してもらって,自分なりに感想なり問題意識を持ってもらった結果が記事になると思いますので,そのような取り組みも重要だと感じました。

【平木委員】

「司法の窓」の辰巳さんとの対談のように,地方でそれぞれ何らかの力を持っていらっしゃるような人が,地方の裁判官と対談するなど,いろいろ企画してもよいのではないかと思います。こういうことに関心を持っている人はいろいろなところにいらっしゃると思います。

【戸倉審議官】

もちろん,我々も何でも肯定的に書いてくれという気はありません。むしろ,問題意識をどんどん示していただき,それがまた話題になり,皆さんにも考えていただければそれが一番よいわけです。時には厳しい指摘をしていただくことでも非常に意味があることだと思います。日常的に裁判員制度についても話をして,意見を交換していくということを,それぞれの地域なり,地方で重ねていく必要があるということでしょうか。

【渡辺委員】

例えば,商工会議所の方などはいろいろ不安を抱えているのではないでしょうか。大企業以上に,中小企業や個人経営の方たちは,「裁判員制度と言われたって,仕事のことを考えるととても行けないよ。」と戸惑っていらっしゃると思います。裁判所と中小企業の経営者の方が直接話す機会があればよいのですが,それはなかなか大変でしょう。ですから,間に立ってくれる方たち,例えば商工会議所の幹部や事務局メンバーに,どこまで理解を深めていただくかが大切ですし,そうした方たちを通して,いろいろな問題点や批判を出してもらうことも必要でしょう。そういったいろいろな目で見ていただくと,いい指摘やヒントも得られると思います。

【戸倉審議官】

裁判所には地方裁判所委員会という委員会があります。法曹三者の他に,メディアの方とか大学の先生など学識経験者にも入っていただいています。これもある意味ではフォーマルな場での意見交換です。
しかし,それ以外に,もう少し膝を詰めて話ができる機会を繰り返すのが大事ですね。

【篠田委員】

全国に向けて,日本の国民1億人に向けて発信すると,ほとんどストレートに届いてくれず,地域ごとに相当特色があると思います。産業構造などいろいろ違いますから,地域の特色に合わせて,きめ細かく届くように発信していくということになると,やはり地域のオピニオンリーダーになり得るような方々と地裁レベルでコンスタントに交流を持って,意見を吸い上げていって,その地域ごとに別々の形で広報していくということも,場合によっては効果的なのではないかと思います。
このパンフレットの絵がとても象徴的ですが,このイラストは,東京の人間から見ると非常に違和感があります。地方都市に持っていけば本当にぴったりするところもあると思いますし,これ一つ見てもそうなので,本当に地域ごとに検討することが一つのテーマだと思います。

【吉田委員】

地裁レベルで,各種団体の代表者との懇談会といったものがあるのですか。
裁判員制度を周知するために集まってもらい,そこでいろいろ情報提供し,相手の方たちからも意見を聞く。それを中央レベルだけでやるのではなくて,地方レベルでもいろいろな意見も聞き,集まっていただいた方に話をしてもらう,そういうこともやるとよいと思います。中央レベルだけではなくて,地域ごとでもやるとよいと思います。

【戸倉審議官】

当面何をすべきかということを考えるにあたり,今まで伺っておりますと,対象ごとにできることが非常に多いなと感じました。対象に応じた重点的な広報のほか効果的な手段について何か御意見がございますでしょうか。

【平木委員】

これまでの図柄についてもいろいろ文句が出ていますね。看護士さんがいないとか。

【戸倉審議官】

例えば,職業が分かるような姿を表現すればするほど,これはいかがかという意見が出ました。批判を受けるということは話題になっているということです。それはそれで,少なくとも見ていただいているなと我々も非常にうれしくも思うのですが。
次回の懇談会では,いわゆるタウンミーティングなど,もう少し具体的な企画の広報の進め方といったことについて御意見を伺えればと思っています。
ところで,広報活動を進めていきますと,いずれ受け手である国民の意識やある程度広報活動を進めた後の効果を測定し,その結果をもとに,その次の段階の広報活動の方向性とか手段を考え直していかなければいけないと思います。国民の意識調査といってもいろいろな項目があるわけですから,いったいどのあたりの意識の調査をすればよいのか。先ほどありましたように,恐らく地域ごとに産業構造も違えば年齢構成も違う。そういった我々が把握しておくべき情報の項目があると思いますが,その点について御意見を伺いたいと思っております。
とりあえず中央でいろいろなことを考えても,やはり最後は地域ごとに裁判員がどういう状況になるかということをきちんと把握しておかないと,いろいろな運用を考えるに当たり,あるいは広報していく上で意味がない。やはり各地方で関連する基礎的な情報データを十分集めていかなくてはいけないという問題意識を持っています。
今後それぞれ住民,国民の意識を把握していく上で,あるいは我々がその方法を考える上で,こういうことはつかんでおかなくてはならないというものについて御意見を伺いたいと思います。

【平木委員】

裁判員制度ができて,「あなたたちが裁判員になる可能性があるのです。」ということを学生に言ってみてくださいと言われ,自分の大学の学生に裁判員に呼ばれたらどういう気がするかと聞いたことがあります。ほとんどの学生が,「そんなのとても私は適していない。」という反応をしました。また,誰でもなれるのかという質問があり,万引きしたことがある人が呼ばれることもあるのかと言っていました。このようにいろいろな躊躇がある可能性があるわけです。いろいろなバックグラウンドの中で躊躇があるのではないか。そういう意味で,本当に細かい意識を調べてみると,きっとさまざまなものがあるだろうなと思いましたが,どうやって調べればよいのか,よく分かりません。

【渡辺委員】

国民の意見とか要望といったものを,制度設計に反映させることも考えてよいと思います。最高裁が諸規則を制定するときには,いろいろしかるべき方たちに意見を伺ったり,パブリックコメントを求めたりしてきたと承知しています。これまでは,とりあえず学者や実務家などに聞いておけば特段支障はなかったのだと思います。けれども,まさに対象が国民全部に広がる裁判員制度では,例えば,裁判員候補者に選ばれましたと言われてから実際に呼び出しを受けて裁判所に行くまでの間にどのくらいの猶予があれば対応できるのか,1週間後か,1か月後か,裁判所や法務省,弁護士会で「まあ,これくらいが妥当でしょう」などと勝手に決められても,国民としては困るところもあろうかと思います。「どれくらいならば調整がつきますか。」といった形で意見や要望の吸い上げをし,もちろんすべてを反映できないとは思いますが,規則制定作業の中で参考にしてもらいたいし,また,そうしたほうがいくらかでもスムーズに制度が動いていくのではないかと思います。

【戸倉審議官】

ものには理念で動くものもあれば,そうでない場面もあります。特に,選任されるまでの手順は,恐らく理念より,本当に国民が一番応じやすいような手順という視点で考えていくべきでしょう。
今は,改正された刑訴法の施行のための最高裁規則を検討しております。これは裁判員制度を念頭に置いた手続の改正です。裁判員裁判の手続イメージを念頭に置いて検討しておりますが,選任手続など,裁判員制度固有の事柄に関する規則はもう少し先の検討になります。
この段階では,その点についてお伝えすることよりも,むしろ,それについての御意見を聞くほうが広報になってしまうのかもしれません。

【篠田委員】

どういう手段で意見を吸い上げていくとか,意識を把握していくか計画はあるのですか。例えば,調査とか,意見を聞くような会を設けていくとか。

【戸倉審議官】

一番に思いつくのは,世論,アンケート調査的なものが考えられますが,問題はどういう人にどういう項目で行うかです。御意見がぜひあれば伺いたいところです。

【楡井刑事局参事官】

特に裁判員制度の場合は,制度に強い関心がおありの方だけが参加するというわけではなく,無作為に抽出された国民の方に参加していただくので,無作為で抽出される方々の意識というものをどうやって吸収するのかという観点から手段を検討していかなければならないと考えています。

【井田委員】

御質問は,別に制度の問題をどう改善するかという意味ではなくて,広報がどこまで効果を持ったかどうかの問題ですよね。

【戸倉審議官】

あるいは,どういう点にまだ細かい疑問が残っていて,今後広報するときには,どのあたりを重点的にやっていかなければならないのか。ですから,本当に知りたいのは,嫌だと言っている方の考え方ということになります。

【井田委員】

嫌だと言っている人の考え方の中で,聞いて尊重に値する部分と,聞く必要がない部分とがあると思います。例えば,さっきの万引きをしたことがある人が裁判員になるのかといったことになりますと,人を裁くというのはどういうことなのか,むしろ考えてもらうためにこの制度があるわけですから,そこで悩んで裁判所に来ないという考えは,もう広報や制度に反映する以前の問題になってしまいます。あるいは死刑の問題についても同様だと思います。
むしろ,それこそ何時間もかけて行って帰ってきて,ほとんど自分が役に立たないような手続だったら嫌だなと思うのは当たり前でしょう。得られるものと失うものとがあまりバランスを失しているような,何時間もかけて行って,結局自分は何のためにいたのだろうかと思うようなものだったら,やはり嫌だろうと思います。広報や制度を考えるにはむしろそちらのほうが大事です。裁判の本質に関わるようなことを国民に考えていただくことに意味がある。そこがこの裁判員制度の意味でもあると思います。

【平木委員】

そういう意味で,アンケートはこちらが知りたいことが分かるというだけではなくて,アンケートに答えること自体が本人の意識をいろいろ高めることになります。ですから,意識調査のようなことはいろいろな形でやるとよいと思います。
それから,どこかでそういう研究をしてもらうわけにはいかないのでしょうか。マスコミを専攻している人とか,法律を専攻している人にとって研究のテーマにならないのでしょうか。研究費を出せばやる人がいると思いますが。

【戸倉審議官】

意識調査をやる研究はあります。例えば,選挙に関しては,選挙人の行動様式など,かなりいろいろと研究されていると思います。

【平木委員】

研究費を出せば,やる人がいるのではないでしょうか。

【井田委員】

例えば,臓器移植の関係でよくアンケートをします。たまたま結果を読むこともあるのですが,よくあるのは,脳死と植物状態の区別がそもそも最初からついていない人がいます。つまり,一番根本の脳死か植物状態かは全然違うという認識のない人が,そのほかの回答,例えば,脳死移植はやってくださいと言っても,どれだけ意味があるのか。根本的な理解を確かめるような質問をすることは確かに大事です。ここが分かれば裁判員制度が分かることになるし,ここが分からなければ制度を分かっていないというような問題を幾つか出して調査をするべきということになるかと思います。

【河本総務局参事官】

お話を伺っていると,意識改善の問題と,制度への絶対的な拘束をどう解消していくかという問題とに分かれていきますが,同じ手法でできるとは思えません。前に篠田委員もおっしゃいましたが,関わりたくないという人はどちらの問題が多いのか。ある意味では制度の問題ですし,あるいは意識の問題かもしれませんが,そこを汲んで,どれほどそれを義務として認識していただいているのか。そこを意識調査して効果の測定方法の工夫やタイミングを検討しなければならないと思います。

【吉田委員】

広報に当たって国民の認識,要望,意見をどのように把握していくべきかについては,制度設計をこれからいろいろ進めていく上で,国民の意見,要望を聞きたいということなのか,あるいは,この裁判員制度全体について,国民はどう認識して,どう思っているのかということを調査していくということなのか。

【戸倉審議官】

結論的には両方あるべきかもしれません。
広報となりますと,法律でできているものに対して,どのあたりに抵抗感を感じ,その理由は何かということを知って,今後広報していく際の材料にする面があるのは当然です。他方,選任手続などはまだ決まっていませんし,手続的な部分については,まだ制度設計で配慮する余地もあります。

【吉田委員】

広報に当たってということになると,今できている裁判員制度の大枠についてどういう意識を持つのかという調査の方法としては,政府の広聴活動という方法もあります。そういったものを通じて,国民の皆さんがどういう意識を持っているかを調査してもらうというのも方法の一つではないでしょうか。あるいは,世論調査をするところに頼んでやるというのも一つです。
制度設計のためにとなると,本当は国民の要望をきちんととらえるのが望ましいのですが,どうやってそれを把握するか,非常に難しい問題があるのではないかと思います。ある程度裁判所側で案を作って,それを投げ掛けて,意見を聞く方が,白紙の状態でやるよりはよいのではないかと思います。
例えば,地方自治体で総合計画などを作る際,それをいろいろなレベルの県民に問いかけるため懇談会を作ってもらい,そこに案を示していろいろな意見を聞いて固めていくという手法を取っています。なかなか難しいのかもしれませんが,少し案を作った段階でそれを示して議論をするということが必要になるかもしれません。

【戸倉審議官】

例えば,今から広報しましょうという早い段階に,現在の国民の意識はどうだという調査はやはりしておくべきか,それともある程度広報をしてからやるものなのかということはいかがでしょうか。
新聞報道では6割,7割が参加したくないとあります。それは,それぞれ新聞社の問題意識で問題の問立てをして調査されていると思います。この懇談会でいろいろ御意見を伺って,この点を押さえておいた方がよいではないかというところがあるのではないか。スタートに当たって,何も国民の意識についての資料がないというのはよいのかという,素朴な疑問から申し上げているのですが。

【中村総務局一課長】

例えば,車を宣伝するときに,スピードの速い車を求めているのか,内装がラグジュアリーなものを求めているのかということの意識があれば,スピードを求めるのは,速いイメージの宣伝をするでしょうし,中身がよいものなら,そちらを強調した宣伝をする。そのような意識に合った広報をしていくのが最初の段階でよい方法なのか,あるいは最初はそうではなくて,ダーッととにかく何か知らせるようなものをやっていくのがよいのかというやり方をお聞きできればと思います。

【井田委員】

それはできるのであれば,どこに不安を持っているのか,何に不安を持っているのか調査した方がよいでしょう。

【平木委員】

先ほど研究する人がいないのかと言った発想はそこにあります。研究する人だったら,今何が足りないということがあって,そこから始めるだろうなと思ったのですが。

【篠田委員】

国民は何をどういうふうに考えていて,何に躊躇しているのかという話は,もう私たちはさんざん聞いた話です。こういう理由があって,こういう理由もあって,こういうような理由もあって嫌がっている人たちがいると。一方では無関心な人たちがいる。なぜ今更そういうことを聞いているのかなと思ったら,裁判所で独自の調査はまだしていない,新聞報道や何かで行われたことで,読んで知っていたということだと言われる。
この先,どういうふうに広報していくべきか,把握していくべきかとか,効果測定はどんな方法か,アンケートを考えているのか,それとも意識調査なのか公聴会なのか,まだそれは特に裁判所としての案はないということですか。

【戸倉審議官】

こういうものは予算が関わりますが,今年は裁判員制度ができる前に予算の手続が終わっていましたので,あまり大々的にお金のかかることはできないという事情がありました。しかし来年度は,やろうと思えばやれるだけの体制は整えていけると思っています。

【篠田委員】

新聞社などが,国民はこういう意見だときちんと出してきています。それはどのくらいの予算計画を立てて,どういう形で調査をした結果,私たちが目にするような記事ができてきているのかを知りたいのですが。

【渡辺委員】

世論調査のやり方はいろいろあります。私は専門ではありませんが,調査員が対象者を訪問して対面式でやる調査もありますし,電話でやる調査もあります。対面調査だと,対象者の数はある程度少なくても精度が高い。一方,電話調査は精度がやや低くなるので,それを補強するために対象者を多くする。統計学の知見や過去の失敗をもとに,マスコミも一定のノウハウを持っているし,プロの調査会社に委託するケースも多いと思います。
ただ,裁判員制度に特化した世論調査というのはなかなかやりにくいのが現実だと思います。大規模な調査となると相当お金がかかりますから,何かと抱き合わせでやる。幾つかある項目の一つとして,裁判員制度に関する意識調査をやる。そうすると,裁判員制度について聞ける項目というのが四つか五つ程度になってしまう。だから,大づかみの傾向は分かるけれども,では実際にどんな階層の,どんな価値観を持つ方が裁判員制度をどう評価しているのかとか,どんな心配があるのかとかいった詳細までは,分析しきれない。しかし,まさに裁判所をはじめとする法曹三者は,そこを知りたいわけでしょう。だから,政府の通常の世論調査でやるというのも一つの手ですが,別途,最高裁の予算なのか法務省の予算なのかはともかく,裁判員制度に特化した現状把握のための大きな調査をやった方が当然よいということになろうかと思います。広く国民の間でどの程度認識が深まっているのか,あるいは全然深まっていないのかというところを測定して,広報戦略を練ろうということであれば,一定期間をおいた無作為調査を繰り返すことも必要だと思います。
あとは,やはり篠田さんがおっしゃった公聴会,あるいは地域のリーダーや各種団体の核になるような方たちとの話し合いの中でいろいろな意見を出してもらって,地方で検討するとともに,中央に集めて分析し,対策を練るということも必要でしょう。裁判所などのホームページに投稿欄や掲示板のようなものを作るのも一計かと思います。そこに出てくる意見を見れば,「こういうところがみんなとても心配なのだな。」とか,「どうもここの理解がまだ深まっていない,ではここについてもっと重点的に広報していこうか。」といった検討ができると思います。このような多様な手段を用意することが,広報を考えていくうえでも有意義ではないかと思います。

【戸倉審議官】

シンポジウムや法廷傍聴でお話をすれば,いろいろな意見が返ってきます。だいたいこんなものだなというのはつかめますが,やはり網羅的な調査をやるべきとは思います。

【渡辺委員】

私が先ほど申し上げたのは,その大掛かりな調査の中で,制度設計にも資するような質問も盛り込み,その回答を今後の規則制定作業等に反映させるとよいのではないかという趣旨です。

【井田委員】

お金がかからないやり方があるとすると,ホームページか何かに質問をたくさん書いてくださいとコーナーを設ける方法があると思います。かなり恣意的になってしまうか,もしくは意見が来ないかもしれませんけれども,それでも一応簡単な質問の項目が出てきて,チェックしていって,自分はこういうところが不安なのだと書いてもらうというようなことを,ホームページに載せておけば,ある程度調査できると思います。

【吉田委員】

いろんな手法を使って意識調査をしていくことはよいことだろうと思いますが,独自の調査をやるとなると,それなりの費用がかかると思います。しかし,それだけ費用をかけても,調査をしておいたらよいということであればやればよいのではないでしょうか。
今マスコミの報道で,裁判員制度についての認知度や国民のスタンスについては,大体のところは出ている。それよりもっと詳しく多角的に調べておく必要があるということであれば,やっぱり調査をやるべきです。やって無駄ということはないと思います。

【平木委員】

それと,どんな人たちを対象に調査をするかによっては,恐らく回収率がとても悪い対象もあると思います。結局回収率が悪いと,データにならないということになってしまうことも考慮すべきです。

【戸倉審議官】

アンケートなどにきちんと答えて書いてくれる人は,もともとある程度関心のある方になってしまいます。ところが,たぶんこれからやらなければいけないことは,むしろアンケートを書くことすら面倒だという方々の意識を,非常に無関心であることはわかった上で,どういう形で無関心なのかということを具体的に知ることがかなり重要なことだと思います。

【吉田委員】

裁判所が自分で調査すると言っても大変でしょうから,専門の調査機関に依頼してやるしかないと思います。

【戸倉審議官】

直接はできませんから,当然委託ということになると思います。
他に何か全般的に,例えば,最初の話題に戻りますが,当面これだけは一番先にやるべきことは何でしょうか。来年を待たずにやるべきだというものがあればお聞かせください。

【平木委員】

私はビデオのような気がします。
それを全学校が買ってくれたとしても,どれくらい見てくれたかというのはやはり調べた方がよいと思います。例えば,性教育のビデオなどは,全国の学校に全部行き渡っているはずだと売っている側はおっしゃいますが,実はとても視聴率が低かったりします。見せていても,上の空で見ている子どもたちももちろんいますが,どれくらい見せたかは調査したほうがよいと思います。

【井田委員】

学校の先生にとってはビデオという教材はよいものです。授業で活用しやすい素材なので,提供すれば先生はみんな見せると思います。

【篠田委員】

あとは新人研修とか公務員研修,企業の中堅研修などでも見せてもらって,研修に取り込んでもらうという手もあります。

【吉田委員】

ビデオを作ったら,学校以外に,どういうところに配って見てもらうのかということをよく考えてみたらよいと思います。また,どの程度の数を作るかということも検討が必要です。

【戸倉審議官】

今年度中には,法曹三者が監修する形でビデオを作りたいと思っています。
では,本日はどうもありがとうございました。